【ナンバカ】ひとひらの言の葉 (ページ6)

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Word.0006　読書ページ6

「はい、5108番さん。頼まれていた本です」

格子の隙間を通して星太郎から三冊の本を受け取った私は、ぺこりと頭を下げた。

それぞれのタイトルを確認する。日本人作家の文学全集と、哲学入門の本、日本史の本。全然貸し出されていないのか、使用感はあまりなかった。

「コトハちゃん、それ何？」

『星太郎に借りてきてもらった本』

スケッチブックにさらさらと記す。みんなとたくさん話したおかげで、素早く綺麗な字を書く能力が身についていた。

私の手元を覗き込んできたロックが、僅かに眉をしかめる。

「あー、俺活字は駄目だな。眠くなっちまう」

「でもお前、食堂の献立はずっと読んでるじゃねえか」

「あれは別だ！」

ジューゴに指摘されたロックは、ちらりと机の上に置かれた献立表に目をやった。ロックは一か月分の献立をほとんど全て記憶している。

「僕もゲームのテキストだったらいっぱい読めるんだけどなあ」

『やっぱり個人の興味関心によるんだと思う。好きなジャンルの本だときっと読みやすいよ』

「コトハはなんでも読むって感じなんだな。昔から本好きなのか？」

ウノに聞かれた私は、文学全集のページを繰ろうとしていた手を止めた。

本が好きというのはそうなのだが、昔、という言葉が引っかかった。

私はいつ、何がきっかけでたくさん読書するようになったのだろうか。首をひねりながらペンを手に取る。

『多分、そう。昔のことはあんまり覚えてないけど、やっぱり好きだから読んでるんだと思う』

みんなが顔を見合わせた。それまでの楽しげな雰囲気が、ちょっとだけなりを潜めたのがわかった。

「ここに来た理由は窃盗って言ってたよな。その時のことは覚えてるんだろ？」

ウノの質問に対する答えは否だった。首を横に振った私を、みんなが驚愕の目で見つめてくる。

私はその反応を見て、自分が少しおかしいのかもしれないということに気が付いた。

窃盗で捕まったというのは、看守から聞かされたことだ。どういった状況で何を盗んだのかは一切記憶になかった。というか自分の生い立ちの三分の二以上を思い出すことが叶わない。

私を担当した医師は、脳に強いストレスがかかったことによる記憶障害だろうと言っていた。

失声症に、記憶障害。私はどうやら自分が思っているよりヘンテコなようだった。だけどみんなは、そんな私を邪険に扱ったりはしない。