Word.0022 年末 ページ22
「クリスマスイベント、しょぼかったなあ」
一週間後の十三房内でそう漏らしたのはウノだった。
私は読んでいるロマンス小説から顔を上げないまま耳を傾ける。今ちょうどいいところなのだ。
「でもご馳走とケーキ食べ放題だったのはよかったな」
「そりゃあロックは嬉しいだろうけどさ……プレゼントなしってのが最高にケチだな」
「僕もそう思う……最新のプレイ●テーション欲しかったのになあ」
ご馳走食べ放題なだけでも看守側は相当頑張ったようだったが──それを口には出さないでおいた。
「でもたかがクリスマスだろ？」
「相変わらずノリが悪いなジューゴは」
「むしろ俺の国じゃクリスマスが終わってからが本番だっつの。なあコトハ？」
水を向けられた私は渋々読書を中断して、スケッチブックを引き寄せる。
そういえば新年を迎えるまでに、あと何日もないのだ。時が経つのは早い。もういくつ寝るとお正月……この歌を私はどこで覚えたのだったか。
『クリスマスが終わったら大晦日、それが終われば元旦。楽しいかどうかはともかく、クリスマスよりずっと忙しいと思う』
私の文字を読んだ三人はそれぞれ顔を見合わせる。そうしてわなわなと肩を震わせたかと思うと、
「「──ジャパニーズイベント！！」」
大合唱。
まずい、海外組に変なスイッチが入ってしまった。
「アレデスネOHANAMI！ アリマスネ！」
「COMIKE！ イッテミタイネ！」
「OSECHI！ OSECHI！」
今度は私がジューゴと顔を見合わせた。
どうして海外の人は日本の文化が大好きなんだろう。心をくすぐる何かがあるのだろうか。
「ふん、日本の文化に関心がないとは……同じ日本人として恥ずかしいぞ」
と、その時。天井の方からそんな声が聞こえてくる。
首を巡らせた私は、ちょっと引いた。九十九が手足を伸ばして、壁の隅っこに張り付いていたのだ。いつ入ってきたのだろう。
「一発で拙者の居場所を見つけるとは……さすがだな」
「丸見えなんだよカス忍者が！！」
ジューゴが怒鳴ると、九十九は危なっかしく着地し、何事もなかったかのようにキリリと直立した。
相変わらず「カミカゼ」としての演技を続けているらしい。私はもちろん、そしらぬふりをした。
「久しぶりだなジューゴ、修業は順調か？」
「してねーよ！ つーかなんでここにいんだよ、帰れ！」
「まあそう言うな、同じ日本人として大晦日の準備でもしようじゃないか──そうと決まれば蕎麦打ちと行こう！」
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年6月22日 16時
