Word.0013 親切 ページ13
スクリーンの中では時代劇風の街並みを、一人の忍者が駆けている。その人物はまさに九十九だった。
私はこれを……幼いころに見た。隣には誰かが座っていた気がする。だけどその顔には靄がかかっていて、それはどんなに頑張っても晴れなかった。
「過去に映画を見て、それで拙者の顔を覚えていたのだろう。もっとも、もう役者の世界に戻るつもりはないでござるが……」
九十九は言ってから、しまったというように口をつぐんだ。
私はゆっくりと椅子に座り直す。思わぬところで点と点が繋がった。額にはうっすらと汗が滲んでいた。
しかしそれにしても、九十九が役者さんだったなんて。どうりで顔が綺麗なわけだ。
『じゃあ今の、ござるござるっていうのも演技ってこと？』
「……そういうことになるな」
一瞬素の口調に戻ったことを、私は指摘しないでおいた。
「どうでござるか？ コトハ殿の記憶を取り戻す一助になったであろうか？」
『うん、多分。でもごめんなさい。私のわがままで、言いたくないこと言わせちゃった』
「それは……気にすることはないでござる。もう過去の話だからな」
九十九は茫洋とした目で、遠くを見つめていた。
私はそれ以上追及することをしなかった。お昼休みの終わりが近づいていたので、残っていたご飯を急いでかき込む。
しかしふと思い立って、殴り書きの汚い字でこう綴った。
『九十九って優しいよね』
ジューゴは「九十九はドジな上に暑苦しい」と言っているけれど、それも全部カミカゼになりきっていたゆえのもの。
実際の九十九は、思いやりがあってストイックなのだ。当の本人は私の字を見て、腕組みをした。
「なんというか、放っておけないと思ったのだ」
『放っておけない？ 私ってそんなになよなよしてるのかな』
「浮世離れというか、一種の危うさがあったのでござる。いや……こんなことを言うのは失礼でござるな。すまぬ」
首を横に振る。だけど「危うさ」という単語が、胸の中に引っかかった。それはつまり、地に足がついていないように見えるということなのだろうか。
九十九は先に席を立った。私は遠ざかっていく背中を見送る。
自分だって九十九に……いや、九十九どころか十三房のみんなにすら打ち明けていない秘密がたくさんあるのではないか。
言いたいと思っても、記憶がないから言えない。それはなんだか不公平だなと感じた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年6月22日 16時
