717 太陽の巫女 ページ10
私たちの驚愕の表情を見て、
「……このお方こそが、邪馬台国の女王であらせられる日ノ巫女様です」
「ああ、そういえば言っていなかったな。驚かせてしまってすまない」
平民が着るような服を着て、手には矢を持ち、肌は健康的な色に焼けている。それは私たちの持つ卑弥呼のイメージとは程遠かった。
そして……卑弥呼ではなく、日ノ巫女。私たちの間に自然に浮かんだ疑問に、ワンダバが答えた。
「卑弥呼というのは、後世の人たちがつけた名だ。この時代で彼女は、日ノ巫女と呼ばれていたんだろう」
音がなまって伝わったか、誰かがその名前に別の意味を添えたのか。そんな風にして、歴史は少しずつ、良くも悪くも捻じれて伝わっているのかもしれない。
私は改めて日之芽さんを見た。年齢は二十代後半か三十代くらい。長い赤毛はまさしく、太陽を彷彿とさせる。
翡翠の瞳には指導者の風格があった。そんな風にしてじっと観察していると目が合ってしまって、私は慌てて顔を逸らす。
「でも卑弥呼って、民衆の前には姿を現さなかったんじゃなかったっけ？」
ふと信助が小声でそう呟いた。
それを耳ざとく聞きつけたらしい日之芽さんは、目を丸くする。
「民衆の前に顔を見せない？ おかしなことを言うな。そんな引きこもりの統率者を、人々が信頼するわけはないだろう」
「……そのあたりのことも、後世の人たちに間違って伝わったか、それか誰かの手によって意図的に書き換えられたのかもしれないね」
フェイの推理が妥当なところだろう。孔明さんなんかは、性別が間違って伝えられていた。
シャーマンだなんて、とんでもない。実際の卑弥呼は自分の目で国と民を見つめ、政治に着手する王だったのだ。
「それで、この者たちを本当に招き入れるというのですか」
会話の合間を縫って、久米彦さんが日之芽さんに問いかける。
「ああ。急ぎ、食事と部屋の準備をさせてくれ」
久米彦さんは最後まで納得がいっていない様子だったが、日之芽さんの指示を受けると一礼し、来た道を駆け戻っていった。
「さて、とりあえず館まで案内しよう。真っすぐ向かうのもつまらない。せっかくだから、街をぐるりと見て回りながら行こうか」
日之芽さんはこちらに笑いかけてくる。
だけどその正体が女王とわかった私たちは、なんだか恐縮してしまった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
