757 奮い立たせて ページ50
──もう、駄目なのだろうか。
私なんかが時空最強イレブンのうちの一人として並ぶなんて、過ぎた夢だったのかもしれない。
ずっと、必死にやってきた。自分には何もないのかもしれないと思いながら、それでもみんなと支え合ってここまで来た、のに。
頬を流れるものは、雨粒か涙か。
身体がひどく怠い。額に張り付いた前髪がうっとうしい。
これから先に待ち受ける未来が、重く厚い灰色の壁のようにしか感じられなかった。このまま豪雨の中に紛れて、自分だけひっそりと消えてしまえれば──
「立て、AAっ！！」
──雨音を切り裂いて届いた、その声。
撃たれたように顔を上げる。フィールドの中央、ずぶ濡れ泥だらけになった神童が、両の拳を握り締めて、真っすぐ私を射抜いていた。
「自分はここまでなんじゃないかと、心が揺れ動くときもある。だがどんなに打ちひしがれても、サッカーを続けたいという思いが少しでもお前の中にあるのなら──立ち止まるな！」
ベールのように私の周りを覆っていた雨が、ふっつりと途切れていた。雨脚が弱まったのだ。
一条の活路が目の前に横たわっている。それは神童が、そしてチームのみんなが差し出してくれた光明だった。
「いざという時は自分を……そして俺たち仲間を信じ抜け！ お前の身体が熱く強く、脈打つ方に進め！！」
風が吹いて、濡れそぼった私の髪を微かに靡かせていく。
瞳に盛り上がった雫が一筋、音もなく頬を滑り落ちていった。これは正真正銘、自分の涙だった。
何か言おうと思ったけれど、震える唇では言葉を紡げない。
返事の代わりに私は立ち上がった。足裏を地につけ、手を膝に置き、ゆっくりと、しかし確実に二本の足で立った。
──茨の道だろうが炎の道だろうが、そこに道があるのなら歩け。
不意に胸の中からそんな声がした。私自身が発したようにも、クロエが発したようにも、そして……この胸の中に燃え盛る炎が発したようにも感じられる。
頬の泥を手の甲で拭い、私は神童と向かい合った。
──ありがとう。今ので目が覚めた。私のやるべきことが分かった。
相手フィールドに目を向ける。パーフェクト・カスケイドは直立不動の姿勢で、私たちに身体を向けている。
恐れがないと言ったら嘘になる。だけど立ち向かえるだけの勇気が──消えない灯火が、確かに私の中に生まれていた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
