756 煙る視界 ページ49
後半戦が始まる直前から、小雨が私たちの頬を打った。
草いきれと土の匂いが地面から立ち上ってくる。西の空には黒雲がたたずんでいた。
不吉な空模様から視線を逸らし、前を向く。どうにかして打開しなければ。
後半戦開始。
パーフェクト・カスケイドは先ほどと同様、ハイパーダイブモードからの化身アームドで向かってきた。
食らいつけなくても、食らいつかないと──しかしどれだけ気を確かに持っても、こいつらに勝てるビジョンが浮かばなかった。
「気負いすぎちゃだめやんね、A！」
黄名子に呼びかけられたが、しかし腹を決めて挑まないと事態は好転しない。
ボールを持つ相手選手に何度も突っ込んでいったが、弄ばれるようにして抜き去られてしまう。
辛くても、足を止めるな──
「「『シュートコマンド20』──」」
「行かせない！」
相手がシュートを打とうとするのを、太陽がスライディングで防いだ。
間一髪だ……私は結局こうやって、誰かに助けられてばかりなのか。
雨脚はどんどん強くなってくる。ぬかるんだ地面に足を取られて思うように走れない。雨粒が目に入ってきて、視界が不鮮明になる。
パーフェクト・カスケイドは悪天候など意に介さない様子で迫ってきた。
「A！」
神童からのパスを、危なっかしく受け取る。雨を吸った服がずっしりと重かった。
そこから咄嗟に動くことができない。砂嵐が通るかのようなめちゃくちゃな思考が脳をかき乱し、呼吸が荒くなる。
──今の私がボールを持っても足手まといになるだけだ。しかしミキシマックスするには積極的に前に出なければ。他でもない、私が。
「──！」
そしてその逡巡が……命取りになった。
「「『ディフェンスコマンド14』」」
技を正面からもろに食らった私の身体は吹き飛び、地面に叩きつけられる。頬に泥がこびりついたのがわかった。
霧野がどうにかカバーし、ボールがタッチラインを超えたのが視界の端に見える。
起き上がることができなかった。
大粒の雨はさらに勢いを増して、容赦なく身体を打ってくる。寒さで指先がかじかんできた。
チームのみんなが、日之芽さんが、兵士たちが私のことを見つめているのだとわかっても、立ち上がれなかった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
