755 ギリギリのプライド ページ48
「君は、決して強くはない」
瞼がピクリと動いた。
その言葉に傷つけられることはなかった。自分が弱いのは、誰よりも自分自身が知っていたから。
「だからこそ君は悩み、もがき、勝利への糸口を見つけようと奮闘している。私がここで『頑張れ』と言っても、君には届かないだろう──今の君に必要なのは、監督からの鼓舞ではないからな」
私の両肩に日之芽さんの手が置かれた。
日之芽さんは私と視線を合わせ、一言ひとこと区切るように言葉を紡ぐ。
「辛くても、足を止めるな。根性論かと思われるかもしれないが、結局のところ、最後に勝敗を決するのはやはり意志の強さなのだ。そして君は一人で戦っているのではない──そのことも、わかっているね？」
私はそれに対し、震える声で「はい……」と返すことしかできない。
日之芽さんが言っていることはもちろんその通りだろう。理解はできるのだが、それが実体を伴って私の身体に浸透してはくれないのだった。
後半戦のあと三十分で逆転しなければならない。いけるか、やれるか。どのみち、やるしかないのだけれど。
と、クロエが日之芽さんの後ろからひょっこりと姿を現した。
クロエは、深刻ではないが決して能天気ともいえないような顔で、私にいってのける。
「もしプレッシャーが辛かったらさ、あの子を見返してやるって気持ちでプレーしたらいいんだよ」
「え？ あの子、って……」
私の問いに答えず、クロエはフィールドのタッチラインすれすれまで歩いていく。
そうして
「
大声が空気を震わせ、草原を駆けていく。
ここからでは難升米の姿はゴマ粒の大きさほどにしか見えないが、大声に気づいて顔を上げたのがなんとなくわかった。
「そっから見てなさいよ、あんたが散々けなしたAが、大活躍する姿を！！」
びしっと指を突き付けたクロエは、数秒後に元の表情に戻った。
息をついてこちらを振り向き、ちょっと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「ま……今のはこっちの私情だけどね」
ぽかんとなっていた私は、思わず少し吹き出してしまった。
今ので少し、靄が晴れた。私の緊張を解こうとしてくれたのだろうが、やっぱり難升米のことはなんというか、いけ好かないらしい。
──なんとか踏ん張ろう。私は一人じゃない。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
