754 掴めないチャンス ページ47
だけどなかなか攻撃に転じることができない。ボールを渡さないように立ち回るのが精いっぱいだ。
「Aさん！」
太陽からのパスを受ける。しかし同時にレイ・ルクが猛然と迫ってきた。
間一髪で錦にボールを回す。だがシュートへ踏み切ることは叶わない。
みんなは私にいつもより積極的にボールを回してくれる。少しでもミキシマックスのチャンスを作ろうとしてくれているのだ。
だけどその機会をなかなか活かせない。焦りだけが加速していく。
トーブからのスローインを受け取った私は手ごたえを感じ、そのまま前線へ攻め込みにかかる。
しかし一瞬のうちに左側からボールを奪われ、相手方の猛攻を許してしまった。
サイドからもう一人が切り込んでくる。そうしてあのシュートが放たれた。
「「『シュートコマンド20』」」
「『もちもち黄粉餅』──！」
「《ミキシトランス・劉備》──『大国謳歌』！」
黄名子のディフェンスを、そして信助のミキシトランス技を突き破り──二点目。
手が、わなわなと震えた。今のは、私のミスで。
再び鳴る銅鑼の音に、我に返る。
前半戦が終了したのだ。得点は0-2。
どこか茫洋としたままベンチへ戻る。葵からボトルを受け取ってもそれを口に含むことはせず、ただ宙を睨んでいた。
相手が一筋縄でも二筋縄でもいかない相手だということは理解しているつもりだった。この試合に国の存亡と人間の命がかかっていることもわかっていた。
だがわかっているだけじゃどうしようもないのだ。結果を出さないと何の意味もない。
そもそも私は、今までの対パーフェクト・カスケイド戦の中で、自分一人の力だけで何か活躍したことがあったか？
いや、サッカーとはチームのみんながいてこそだから、単独の活躍が全てでないのはわかっている。だけど私は、私は……。
「──Aくん！」
肩を揺すられて顔を上げる。
「水分を取れ。でないと後半が持たない」
そう言われてやっと、私は自分の喉がカラカラになっているのに気づいた。中身を一気にあおり、半分ほどを飲む。
口の端からこぼれたドリンクを手の甲で拭う。その間も日之芽さんは、私の顔から視線を逸らさなかった。
今は、その真っすぐな目を見つめ返せない。視線が地面へと落ちていく私に、しかし日之芽さんは力強く言った。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
