751 強くあるために ページ44
試合当日は灰色の雲が低く垂れ込めていた。低気圧のせいだろうか、ほんの少し頭痛がする。
川で顔を洗って気持ちを引き締める。「よし」と口の中で呟いて、私は自分の頬を両手でぴしゃりと叩いた。
──絶対に勝つ。勝って
決戦の場は邪馬台国から歩いて数時間ほど南にあるという平原。
総勢千以上の兵力が集結する様は圧巻だった。対決はあくまでもサッカーだが、万が一の時のために兵を集めたのだという。
若い人から壮年の人まで、兵士の年齢は様々だった。きっとそれぞれに大切な人がいる。家族や友人、パートナー──彼らを守るために今、鎧に身を通している。
誰一人傷つけさせはしない。全員の兵士が、無事にそれぞれの家に帰れるように。
「ご武運をお祈りしております」という二人の言葉に、
朝九時ごろ。多くの村人に見送られ、私たちは出発した。太陽の光は雲の奥に隠れている。
「馬にお乗りください」という
日之芽さんらしいと思ったけれど、周囲にいる騎馬兵の人たちが少し困惑しているのがわかる。
よく考えれば王が自ら戦場へ赴くというのは、まずないことのような気がする。
私は機を見計らって、こっそり日之芽さんに聞いてみた。
「あの……怖くはないのですか、戦地へ向かうのは」
日之芽さんは私の問いに渋い顔をすることもなく、むしろどこか晴れやかな顔でこう返した。
「怖いさ。しかし恐れること自体は弱さではない。 恐れてなお立ち向かえば、それは強さに変わる」
短い会話だった。
だけど日之芽さんのこの言葉は一本の軸となって、私のことをずっと支えてくれるものとなった。
＊
遮るもののない平原で、邪馬台国軍と
ひときわ煌びやかな鎧に身を纏った男が、恐らくは王の
北からの風が強く吹きすさぶ。それが合図になったかのように、まず菊地彦が口上を述べた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
