750 怒り心頭 ページ43
「ほんっっっっっとに腹立つ！！」
耳元で急にそう叫ばれ、私はびくりと肩を震わせた。
右隣に視線を向けると、クロエが怒り心頭といった様子で手紙を睨みつけている。そうして腕を振り回しながら、私たちに大声でまくしたて始めた。
「自分が犠牲になったら全部解決しますっていうこの考え方なに？！ 意味わかんないんだけど！ 悲劇のヒロイン気取りなの？ 一人でなんとかできると思ってるのほんとにムカつく！！」
あまりの剣幕に、私たちはぽかんとなるしかない。
だけどクロエの言う通りだった。大勢の人が助かるために一人が捨て石になってはいけない。どちらも無事でいられる方法はきっとあるはずなのだから。
「こうなったらあの子を敵軍の手から引きずり出して、こんな手紙をを書いたのを後悔させてやる！ そんでAと
──クロエの激昂が、私たちの中にも小さな灯火を生ませた。
そうだ。難升米に再び邪馬台国の土を踏ませ、伽与さんと引き合わせるまでは……私たちは元の時代には帰れない。
「そうだな。自害などさせない──彼女には邪馬台国の未来の外交官として、その頭脳を存分に活用してもらわなければならないからな」
誰も、何も失わせはしない。
その決意を新たにして、私たちは練習を再開した。みんなの瞳の中には確かな覚悟が宿っていた。
＊
結局、二日間の練習の中では神童との必殺技は完成しなかった。
悔しいけれどこのまま挑むほかない。試合前日のために、体力を蓄えておかなければならないから。
「寝ないと休まんないよ」
女子の寝室。天井の木目を見つめていた私に、隣の布団からクロエが囁いてくる。
「うん……」とそれに返した私は、しかし目を閉じずそのまま仰向けでいた。練習で身体は疲れているはずなのに、頭はそれに反して色々なことを考えていた。
「まあ、難升米や国のこともそうだけどさ。一番は何より、ミキシマックスを成功させることが目標だからね」
私にプレッシャーをかけているのでないことは、その声色を聞いてわかった。
首を向ける。緩く曲線を描いたクロエの唇は、「大丈夫」という形に動いた。
それを見ただけで私の中には、ああ大丈夫だという安堵感が生まれた。そうして気が付くと、徐々に眠りに落ちていっていた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
