749 難升米の覚悟 ページ42
その言葉を聞いた私たちは驚きで顔を見合わせる。そうして練習をいったん中断し、
「どのような経路で届けられた？」
「詳しくはわかりません。門衛が、草の陰に落ちているこれを先ほど発見したようです。彼女のことですから、きっと何か上手い方法を使ったのでしょう」
難升米がひとまず、手紙を送れるくらいは無事だということに、ひとまず私たちは安堵する。
そうして後ろから覗き込んだ私は、文面を見て思わず首を傾げた。
木の表面に鋭利なものを使って文字を刻んだようだが……みみずののたくったような羅列が並んでいるだけでちっともわからない。
私たちの時代と使われている文字とは全然違うだろうけど、それでもこれは……字と認識するには、なんというか個性的すぎる。
「これって、暗号ですか？」
「いや、難升米の普段通りの字だ。彼女の筆致は特殊だから、もし敵にばれても問題ないと判断したのだろう。これを解読できるのは私と久米彦と、それに
頭の回転が速すぎるために、手がそれに追いつかないというタイプの人間なのだろうか。
日之芽さんは私たちにもわかるように、声に出して手紙の内容を要約してくれた。そうして読み進めるうちに、その顔はどんどん青ざめていった。
──日ノ巫女様
このようなことになったのは全て私の責任です。
私は機を見て自害します。そうすれば両国が争う理由はなくなり、無駄な血が流れず、領土も失わないで済みます。
血のつながらない私を育ててくれた母にもよろしく伝えてください。
邪馬台国で学びを深めた日々は、私にとっての宝でした。御恩は忘れません。
難升米──
なんの装飾もない、難升米らしい文章だった。しかしその内容は、私たちを絶句させるには十分だった。
「自害」の二文字が頭にこびりついて離れない。難升米は国のために、自らの命を投げ出そうとしている。
国の大勢の人の命と、少女一人の命。その二つを無意識に秤にかけようとして、私は思わずかぶりを振った。こんなことあっちゃいけない。難升米は絶対生きて、邪馬台国へ──
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
