748 英雄の背中 ページ41
「っと、すまない。つまらない愚痴を喋ってしまったな。何が言いたいかというと……特別であろうとする必要はない。単純な話、己にできることを全力で成し遂げれば、結果が自ずとついてくるだろうと私は信じている。時に立ち止まってしまったとしても、仲間が手を引いてくれるはずだ」
夜の中にいるというのに、
やっぱり道は一つなのだ。あれこれと考えても、結局は歩みを進めるしかない──戦うために。
私の代わりは、誰も務めてくれない。他でもない自分自身がやらなければならないのだ。
「私はそろそろ戻るよ。君も、特訓はほどほどで切り上げるようにな」
日之芽さんは立ち上がって、館の方へ歩き出す。
「ありがとうございました」とその背中に向けて言った私の頭には──ふと、一人の人物の姿が思い浮かんだ。
反射的に岩場から腰を上げ、言葉を投げかける。
「神の声を聞いて立ち上がり、国のために戦いに出た少女を知っています。私たちの友人でした」
恐れを跳ね除け、旗の下に勝利を約束したジャンヌ。
その勇姿は昨日のことのように思い出すことができる。戦場の乙女としての、美しく勇ましい姿を。
「彼女は自分の持つ役割に苦悩していましたが、最後には己を奮い立たせて民を勝利へ導いていました。英雄に相応しい、堂々たる姿で……」
振り向いた日之芽さんは、微かに笑みを漏らした。そうして見知らぬ少女へと束の間思いを馳せるように目を伏せる。
「その少女は己の中の神を信じ、突き進んだのだろうな。その勇気が羨ましい」
赤毛の後ろ姿が小さくなっていく。
日之芽さんの姿が完全に見えなくなってから、私は特訓を再開した。今自分にできることをやるために。
＊
翌日、私のコンディションはいくらかよくなった。
日之芽さんと話して、不安が取り除かれたからだろうか。自分でも体の動きに迷いがなくなったのがわかる。
試合は明日。どう転んでもそこで結果を出さなければならない。
ボールを追いかけながら、私は自分の中で少しずつ覚悟を固めていった。
と、村の方から
「日ノ巫女様！
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 252人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
