747 特別な力を ページ40
「空間を活かして空を制する力、海をも割る強靭さを備える力……」
枠にとらわれないプレーでフィールドを駆け巡るトーブ、太古の力をもってして道を切り拓くフェイ。
「野獣の獰猛さと賢者の知恵で活路を開く力、絶対的な勇気と揺るぎない実行力──」
状況を見極めて的確にプレーを繋げる黄名子、キャプテンとして私たちを鼓舞してくれる天馬。
「私には、それらのどの力もない。役に立つどころか、足手まといになってしまわないかどうか……」
本当になれるのだろうか、「卓越した天眼で勝利への道筋を描く、英傑のリベロ」に。
仲間が後ろで支えてくれているというのも、私が今まで必死に努力してきたのもわかっている。わかっているのだが、確信を持つことができない。
恐れているのだろうか、力を得ること自体に。この期に及んで、そんなことは言っていられないというのに。
「君は、皆の役に立つためには何か特別な力を得ないといけないと思っているな？」
そう問われて顔を上げる。翡翠の双眸は月の光を反射して、穏やかな光を灯していた。
「それは……はい。そうでないといけないですし」
力があるのとないのとでは、そりゃあある方がいいに決まっている。何か一つ誇れるものがあれば、それはそのまま自分の自信に繋がるから。
「──私は、今でこそ日ノ巫女と持ち上げられてはいるがな。生まれた時からこうだったわけじゃない。知の観点からは
日之芽さんは視線を前に向けた。木々を透かして、遥か向こうを眺め渡すように。
「他国が攻めてきた時、天災に見舞われた時……私はあくまでも各種の情報をふまえ、周囲の者に助けられながら、合理的な策を打ち出してきたまでだ。
しかし民は結果を見て、『日ノ巫女には神のお告げがあった』と私のことを持ち上げるのだ。皆の気持ちはとてもありがたい。しかし事実に反するだけに、どうしたものかと悩む日も、決して少なくはないのだよ。私には、神の声を聞く力なんてないからな」
──私の頭の中に、小さな静電気が弾けた気がした。
完璧な立ち居振る舞いを見ているとつい忘れそうになるが……当たり前だけれどこの人は一国の王である前に、一人の人間なのだ。苦悩することだってきっとある。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
