745 胸の中にあるのは ページ38
「熱心なのはいいことだが、根を詰めすぎると身体に障るぞ」
目の前にボトルを差し出されて、はたと足を止める。
見れば軽装の
女王が夜の林を一人で歩いて大丈夫なのだろうか。特訓を見られていたということに一抹の恥ずかしさを感じながらも、私はお礼を言いながらボトルを受け取る。
「あ、ありがとうございます」
その場の穏やかな雰囲気に押されるように、二人並んで岩場に腰を下ろす。
日之芽さんは月を見上げたまま何も言わない。冷えた水を喉に流し込んだ私は、少し迷って頭を下げた。
「えっと、昨日はすみません……出過ぎたことを」
決起会でのことだ。月食を吉兆だと無理やり兵士を説得したのは、やっぱり余計なお世話だったのではないかと感じていた。日之芽さんならすぐにあの場を収められたことだろう。
日之芽さんは目をぱちくりとさせていたが、ややあって笑みを漏らした。
「いいや、むしろ助かったよ。混乱している兵たちには、よすがが必要だった……君はその糸口を見出してくれたんだ」
その真っすぐな言葉を受けて、私の頬は嬉しさでほんの少し赤くなった。
私の行動は無駄じゃなかった……そう言ってくれただけで、勇気を出した甲斐があったと思える。
「それに……真に謝るべきは私の方だよ」
日之芽さんの雰囲気が変わった。真剣な表情を向けられ、私も自然と居住まいを正す。
「先日はあんな──炎の道を渡れなど、無茶を要求してしまってすまなかった。今更許されるとも思っていないが、この通りだ」
深々と頭を下げられ、私は困惑する。この場面を誰かに見られたら、なんだかとんでもないことになる気がした。
「いえ、そんな。私もこうして無傷なことですし、いいですよ」
両手を振ってそう言ったが、日之芽さんが顔を上げる気配はない。
あの時は、サッカーを守るためならやってやるっていう気概でいたから乗り切れたようなものだ。なんで火傷を負わずに済んだのかは、いくら考えてもわからないままだけれど。
「でも……どうしてああいう形で私の覚悟を試したのか、聞いてもいいですか？」
日之芽さんはゆっくりとした動作で姿勢を元に戻した。
私たちの間を風が吹き抜ける。日之芽さんは「どうか笑わないで聞いてほしいのだが」という前置きをして話し始めた。
「──君の中に
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
