741 首をもたげる猜疑 ページ34
「我々は平和を愛し、決して自ら戦を仕掛けない。しかし侵略を受けた時には断固として戦う。それが強靭な国家であり、我が国の伝統だ。
官民を、そして国を守るため、勇気ある我々は、一致団結して戦い抜く覚悟があると私は確信している。今こそ力を発揮するときだ！」
兵士たちから大きな鬨の声が上がる。
びりびりと空気を震わせるその大音声に、私は腕に鳥肌が立つのを感じていた。
一瞬で兵士の心を一つにしてみせた。いや、演説を聞く前から彼らの心は既に一つだったのかもしれない。
どちらにせよ、
「──ありがとう。皆の心意気は十二分に伝わった。ここで、我々と戦いを共にしてくれる同志を紹介しよう」
その言葉を合図に、私たちは舞台に出た。
兵士たちが少しだけざわめく。『同志』と紹介されたのが子供の一団だったという反応としては当然のものだ。
決起会の前。
だけど日之芽さんは「目的を共にする以上、彼らも私たちの仲間だ。秘する理由はどこにもない」と主張した。そうして最終的には、壬麻斗さんもその意見に納得してくれた。
「彼らはこの国の人間ではないが、全身全霊を賭けて我々と共に戦うことを誓ってくれた。その意志の強さは私が保証しよう。彼らの指揮権及び責任は全て私が持つ。だからどうかこの戦が終わるまで、彼らを邪馬台国の一員として迎えてはくれまいか」
と、日之芽さんが言い終わらないうち。兵士が一様にざわついた。
こうなることは想定の範囲内だ。部外者を迎え入れるのは、兵士たちにとっても快いことではない。私たちこそが間者ではないのかという意見も生まれているだろう。
ここからどうやって、兵士を納得させるか。
ふと私は、場の様子が少しおかしいことに気が付いた。
兵士が何か、怯えているように見えたのだ。壬麻斗さんの「静粛に！」という声も、まるで耳に届いていないようだ。
一同の視線は私たちを通り越していた。もっと遥か向こう、例えば空──。
「あれは……！」
天馬の声につられて空を見上げた私は、そして他のみんなも同様に絶句した。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
