740 月夜の決起 ページ33
凛とした声に、ハッとする。
そう言ったのがクロエだったので、私だけでなく他のみんなも驚いた様子だった。
クロエは全員の視線を集めながら、
「勝って絶対、
──さっき、掴みかからんとする勢いで難升米に食って掛かっていたのに。
だけどこれはきっと口八丁ではない。本気で難升米を助けようとしている。
そこでクロエはふっと肩の力を抜いた。
「まあ……頭のいい彼女のことですから、上手くやって敵の手から抜け出して、ひょっこり帰ってくるなんてこともあるかもしれませんけどね」
その言葉に、伽与さんも微かに微笑んだ。右頬のえくぼが、僅かな希望のしるしに見えた。
伽与さんが退室すると、クロエは正座していた体勢を崩す。
そうして私の視線に気が付くと、若干ばつが悪そうに視線を右往左往させた。
「まあ、好きにはなれないけどさ。敵国の捕虜になってもいいってほど嫌ってもないから。それにあの子、まだAにひどいこと言ったの謝ってないし。そのへんちゃんとしてくれないと、もやもやして元の時代に帰れない」
私は思わず吹き出す。言い訳するように早口で言うその顔が、なんだか可愛らしかった。
難升米のあれは悪気があったんじゃないと思うけれど……とは、言わないでおいた。
＊
その日の夜。邪馬台国の中央広場にて、戦の決起会が行われた。
あちこちに据えられた篝火が、整列する数百名の兵士の顔を橙色に照らしている。
私たちは広場前面に作られた、簡素な舞台の袖に控えていた。
三十分ほど前に上った、大きすぎるくらいの満月が、広場に集った人たちを静かに見下ろしている。
纏っている巫女服は、今この時は神に祈るための衣装ではなく、まるで鎧のように見えた。それほどまでに、女王から立ち上る決意は確かなものだった。
「──皆にも既に通達されていると思うが、邪馬台の誇る聡明な少女
朗々とした声が夜空に響く。決して大声を張り上げているわけではないのに、一番後ろの兵士にも届いているであろうよく通る声だった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
