739 母からの願い ページ32
それから数時間は目まぐるしく過ぎていった。万一に備えての軍の配備や民への通達と、国中が大忙しのようだった。
私たちは迎賓館で待機するよう言われていたので、広間で作戦会議を行うことにした。円座になって一同が向かい合う。ワンダバが重々しく口を開いた。
「試合は三日後……もはや無駄にできる時間は一切ない。集中的に特訓して、奴らを迎え撃つのだ」
「パーフェクト・カスケイド以上の刺客が控えていることは、恐らくないと思う。僕らは彼らに一度勝っているから、恐れることはないよ」
フェイの言葉に、私たちは勢いづいた。油断は禁物だが、自信は何よりの推進力になる。
「サッカーに、連れ去られた
神童がみんなの思いを総括してくれる。
そうと決まれば早速特訓だ──腰を上げかけた私たちを、控えめなノックの音が制した。
見れば
伽与さんは私たちと向かい合うと、やにわに手に指をついて深々と礼をした。
「皆様をこのようなことに巻き込んでしまい、申し訳ありません」
急な言葉に戸惑う。どちらかというと巻き込んだのは私たちの方だ。私たちがこの時代に来なければ、邪馬台国が危機に陥ることもなかったのだから。
「え、いえ、伽与さんが謝るようなことでは……」
「
葵の台詞を遮って告げられた事実に、一同は息を呑んだ。
二人が親子……しかし朗らかな伽与さんと人形のような難升米とでは、顔立ちも含め、似たようなところが見つけられない。
そんな疑問を感じ取ったのか、伽与さんは少しだけ顔を上げて口を開いた。
「血は繋がっておりません。捨て子だったあの子を私が引き取って、ここまで育ててきました。一身に愛情を注いだ、ただ一人の娘なのです。皆様どうか、どうか難升米を……」
その声色には涙が滲んでいる。
娘が人質に──我が身が引き裂かれる思いだろう。それでも藁にも縋る思いで、私たちに頭を下げている。
ふと、家族の顔が目の前に束の間浮かんだ。父さんも母さんも、今の伽与さんのように、私のことを案じてくれていたのだろうか……。
「取り戻してみせます」
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
