737 崩れる平穏 ページ30
そうして告げられた言葉に、私たちは首を傾げた。
「さっき兵士のヤツに呼ばれていったぞ」
「伽与さんから伝えたいことがあったのじゃないんですか？」
「いえ、私は何も……」
トーブと霧野からの問いに、首を横に振る伽与さん。
みんなが一様に顔を見合わせた、その時。
「た、大変ですっ！」
慌ただしい声と共に、館の方向から一人の若い兵士が
その人は半ば倒れ込むようにして日之芽さんの前に跪いた。
「どうした」
「な、難升米が……先ほど、
──驚愕の大音声が、私たちの口から一斉に漏れた。
連れ去られた……難升米が？
最後に見た難升米の姿は──兵士に呼ばれて、私たちとは別の方に歩いていく後ろ姿だ。
まさかあの兵士が間者だったのか？ 顔を上げると天馬たちも同じことを思っていたようで、言葉には出さなかったものの各々顔を見合わせている。
「それはまことか」
「はっ、はい──ついさっき、狗奴国からと思しき矢文が届けられました」
兵士は震える手で懐から手紙を取り出し、壬麻斗さんに渡した。
壬麻斗さんは書状を開き、サッと目を走らせる。その表情が強張った。
次に日之芽さんがそれを受け取り、内容をあらためる。後ろから
「書状には、なんと？」
神童の問いに、久米彦さんと壬麻斗さんは顔を見合わせた。私たちに話していいものかどうか思案しているのだろう。
しかし日之芽さんは迷わず、手紙の内容を声に出して要約し始めた。二人は一瞬目を見開いたが、王の決断に異を挟むことはしなかった。
──邪馬台国女王・日ノ巫女殿
我ら狗奴国と貴国邪馬台は、長年対立の関係にあったが、私はその均衡を破る時が今であると判断した。
よって、貴国の少女を捕虜として預かる。
少女の命が惜しければ三日以内に、邪馬台国の南側三分の一の領土を放棄されたし。
無論、戦うという選択肢もある。我らは既に開戦の用意を整えている。
女王殿におかれましては賢明な判断を下されますよう──
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
