729 無機質な指摘 ページ22
「左が甘いから、敵にそこを突かれて球を奪われた。昨日も同じような落ち度があったのに、どうして直さないの」
空気が凍り付いた、と思ったのはきっと、私だけだったのかもしれない。
フッと喉が詰まったみたいになって、何も言えなくなった。絶望というほど重くはないけど、気のせいと片付けられるほど軽くない感情が生まれた。
「あと、足さばきが汚い。無闇に足を出すだけじゃ球を奪えないことは、少し考えたらわかるはず」
それからも指摘は続いた。
トラップの仕方がスムーズじゃない、次の動作への移りが遅い、シュートの時の足の振り抜き方が甘い……。
見かねた水鳥が「おい、難升米……」と声をかけても終わらなかった。十個ほどの項目を私に告げた難升米は少し息をついて、再び口を開く。
「他の人の動きにもそれぞれ弱点はあるけど、貴方だけ極端に目立つ。組織全体の綻びに見える。このままだといつか貴方がきっかけになって、取り返しのつかない敗北を喫する」
負けるかもしれないではなく、負けると言い切られた。
それにももちろん打ちひしがれたが、私がこんなにいくつもの課題から逃げていたという事実がショックだった。
私は焦った。何か言わなければいけないと思った。沈黙の時間が長くなればなるほど、耐えられなくなる。
「──ねえ、それ以上言うと怒るよ！」
しかし静寂を破ったのは私ではなかった。
私と難升米の間に割り込んだクロエのまなじりは既に吊り上がっている。クロエは今まで出したことのないような烈しい声で難升米に詰め寄った。
「Aが今までどれだけ努力してきたのか知りもしないのによくそんなことずけずけと言えるね？！ 吸収が早いのかなんなのか知らないけど、昨日初めてサッカーに触れたアンタに何がわかるの？」
「この人がどういう努力をしてきたのか知らないし特に知りたいとも思わない。私は思ったことを言っているだけ」
──今度こそ本当に場がヒリついた。いや、場というかクロエが。
銀の髪が逆立ったのはきっと錯覚ではなかっただろう。ここからでは見えないけど、クロエの顔は瞬間的に真っ赤になったに違いない。そんな雰囲気が立ち上っていた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
