728 信念を胸に ページ21
そこまで聞いた私たちは、そっとその場を離れた。
二人の言い合う声が聞こえなくなったところで、私は茜に話しかける。
「まさに水と油、って感じだったね」
「喧嘩するほど仲がいいのかも」
ええ？ と、思わずすっとんきょうな声が喉から出た。茜は構わず続ける。
「正反対の二人が、有事の時には手を取り合って立ち向かうの。この前読んだ小説に書いてあった」
それはあくまで小説の中の話なのではないか。いやでも、事実は小説より奇なりって言葉もあるし……。
それでも一つだけわかったことがある。ここの人はみんな、国を良くするために最大限の力を振るっているということだ。
邪馬台国をここまで大きく、強くするまでに、いくつもの障壁があっただろう。それを一つ一つ乗り越えてやってきたのだ。それはまるで私たち雷門イレブンのようで、私は胸の中に小さな灯火が起こるのを感じた。
＊
翌日。朝に少しだけ邪馬台国内を見て回った私たちは、午後から本腰を入れて特訓を始めた。
三対三の攻防戦。天馬と錦と私は、ボールを持って迫る霧野、黄名子、フェイと対峙した。
「行かせんぜよ！」
錦がブロックを試みるが、ボールは一瞬早く黄名子へ渡っていた。
私は方向転換し、ボールを奪うべく走る。
数秒の攻防が続いたが──隙を突かれ、左から抜き去られてしまう。
決定的な攻撃チャンスに黄名子はシュートを打ったが、そこを天馬がカットしてくれた。
ファインプレーに胸を撫でおろしかけ、こんなことではいけないと思い直す。
「あなた」
と。至近距離から声をかけられ、私はぎょっとして飛び退る。
琥珀色の目は、ぞっとするくらい透き通っている。薄い唇が動いて言葉を紡ぐ。
「どうしていつも右に重心が傾いているの」
私だけでなく、周囲にいるみんなの時間も一瞬止まった。
急に何を。そう言いかけた私だったが、難升米の言いたいであろうことを察して口を閉じる。そうして胸中に小さな靄のようなものが生まれるのを感じながら、無言で先を促した。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
