725 文武両道 ページ18
「ん？ 今、何か……」
幸いにもマネージャー三人が機転をきかせてくれて、ワンダバの姿を全力で隠した。
私は自分の手のひらを見つめる。
この場合、私の中に器が育っていないということになるのだろう。
先ほど見事な動きを見せた
「しかしこれはなかなか奥が深い。走りながら、常に攻防について頭を働かせなければならないのだな。兵の育成にいいかもしれない」
気を取り直したらしい日之芽さんが、顎に手を当てて考え込む。
サッカーの良さが伝わったことに、私は頬が綻ぶのを感じた。サッカーは本当に、どこまでも突き詰めていける。選手の数だけ攻防が生まれるから。
日之芽さんの視線がふと難升米に向く。そうして小声で神童に尋ねた。
「難升米は、ずっとああしているのか？」
「いえ、さっき少しだけプレーを見せてくれました。初めてボールに触れたというのに、あまりに動きが洗練されていたので驚きました」
「……うん、だろうな」
やっぱり、といった様子の日之芽さんに、私たちは首を傾げる。
「彼女は常人より、頭の回転がとても早い。ゆえに物事を吸収する速度も尋常ではないのだ」
日之芽さんは数年前、難升米に向かって冗談半分で「そんなに切れる頭を持っているのなら、外交官となって私を助けてくれ」と言ったそうだ。
そうしたら難升米はそれを真に受けて、本気で勉強を始めた。今は中枢部の大人の男性に議論で勝てるほどにまでなったらしい。
その上、猿のように
「彼女によく話しかけて、
一同の視線を受けても、難升米は気にした風もなく本を読んでいる。
……私たちが話しかけても、向こうが刺激を受けることはない気がする。未来のことを話せば興味を持つのかもしれないが、それはご法度だ。
「……さて、私はいい加減に戻ることにするよ。また
どうやらこっそり抜け出してきたようだった。日之芽さんは屈託ない笑顔を私たちに向けてから難升米と二言三言会話をして、立ち去っていった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
