723 驚異的なポテンシャル ページ16
パスを繋ぎながら前線に上がっていく。
ボールをキープしたまま、フェイを突破する。うん、調子はいい。
自分のプレーには迷いがなくなった……と思う。だけどやっぱり何かが足りない気がする。
ずばりこれだと言葉で表すのは難しいが、どうやったらそれを探り当てられるのだろう。
そういうものも、特訓を重ねたら見つかっていくのだろうか。でもがむしゃらに身体を動かさなければ、何にもならない気がする。
「あっ、すみません！」
と。影山がトラップし損ねたボールが転がっていき、
書物に目を落としていた難升米は、ゆっくりとした動作で顔を上げる。そうしてボールと私たちとを見比べた。
「難升米ちゃんも一緒にやるやんねー？」
黄名子が大きく手を振って呼びかける。それに応えてか、本を置いた難升米はボールを手に取って立ち上がった。
「どっちかというと、運動が好きっていうタイプには見えないけど……」
意外そうに信助が呟いた次の瞬間。
難升米が長い髪を靡かせて走り出した。ボールを蹴りながら、つまり、完璧なドリブルをしながら。
私たちの誰もが呆気にとられた。整った顔は無表情で、瞬きもほとんどしないままだったのが、また浮世離れした感じではあったけれど。
私たちの間をすり抜けていった難升米はそのままシュート。呆然としていた信助の横をすり抜けて、ゴールに見立てていたエリアを通過する。
ドリブルするときの目線、シュートのフォーム、どれをとっても完璧だった。指南書にそのまま載せたいくらい。
一番初めに我に返ったのは天馬だった。
「す──すごいよ難升米！ もしかしてサッカーやったことあるの？！」
目を輝かせて難升米の元に駆け寄る。凄いプレーを見て興奮しているようだった。
みんなの反応も同じような感じで、難升米を見てざわついている。黄名子はすごいすごいと言いながらその場で飛び跳ねていた。
「これはサッカーというの」
抑揚を欠いたその言葉が、難升米が今初めてサッカーボールに触れたことを現していた。
つまり少し見ただけでルールを理解し、プレーをものにしたということになる。影山と同じくらい、いやそれ以上の吸収力だ。
──ああ、天才というのはこの時代にもいるのだな。
私はぼんやり思った。そうして
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 252人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
