722 案内役 ページ15
カナリアのように澄んだ声が部屋に響く。それはひどく抑揚を欠いた、平坦な声で──
「私は今、日ノ巫女様から貴方たちの案内役を仰せつかった。私は貴方たちを案内する義務がある。行きたいところ、やりたいことがあるのなら言って」
そう付け足されて初めて、最初の「行きたいところはある」という言葉が、私たちに向かっての問いかけだったのだとわかった。疑問符が抜け落ちた、特徴的な喋り方だ。
英語の文章をそっくり日本語に訳したみたいな、教科書を読んでいるみたいに話す難升米は、再び唇を閉じる。
私たちは「ちょっと待って」と難升米に言い置いて、円陣を組むように顔を突き合わせた。
「どうしよう？ 村の施設は、ここに来る途中あらかた
「それに我々の目的は邪馬台国の観光ではなく、卑弥呼のオーラを得ることだからな……どうにかして彼女にもう一度近づければいいのだが」
クロエの言葉に、腕を組んだワンダバがそう返す。
日之芽さんたちは「仕事がある」と言っていたが、どこへ向かったのか。無論、国の王という立場上、学徒にずっと構っていられるわけはないのだろうが。
私は振り向いて、ダメもとで問いかけてみる。
「よかったら日之芽さ……日ノ巫女様のお仕事を近くで見せてもらいたいんだけど」
「無理。巫女様はご多忙」
とりつくしまもなかった。一体どうすればいいのだろう。
「あっ、じゃあ広い原っぱみたいなところはないかな？」
天馬の言葉に一同はきょとんとしていたが、すぐに得心して頷く。
そうだ、悩んでいる暇があったら──特訓あるのみ。
心当たりの場所があったのだろう、難升米は理由を尋ねてくることもなく、踵を返してさっさと歩き出した。私たちは慌ててその後を追う。
＊
やがてたどり着いたのは郊外に位置する、十分な広さを有する平原だった。ここなら思いっきりサッカーができる。
「よし、アップが終わったら2チームに分かれて、連携の確認をしよう！」
準備体操をする私たちに向かって、天馬が元気よく言った。
難升米は一本杉の木陰に座って私たちの様子を眺めている。その手元にはどこから取り出したのか、小難しそうな書物があった。
──さっき会ったばかりでこんなことを思うのも失礼だが、あんな無口な感じで外交官になれるのだろうか。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
