721 無口な少女 ページ14
村の中を歩くときは、できるだけ全員で行動を共にすること。村の外にはできるだけ出ないこと。
夕方になったらこの迎賓館へ戻ってくるように──そう言って言葉を切った日之芽さんの肩を、
「日ノ巫女様、そろそろ」
「ああ」
促され、日之芽さんが立ち上がる。そうして「おっと、そうだ」と呟いたかと思うと、再び私たちに向き直った。
「誰か一人、案内役がいた方がいいだろう。
日之芽さんの視線を追って、私たちは扉へ目を向ける。
そして──足音を一切立てないで入ってきたその少女に、しばし釘付けになった。
腰に届くほどの長い黒髪は、光の加減によって濃紺に見える。吸い込まれそうな琥珀色の瞳と相まって、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
クロエとはまた違ったタイプの美人だ。私たちと同年代とみられるその子は仮面のような無表情で、こちらをじっと見つめてくる。
「彼女は
日之芽さんに背を押されても、難升米は口を開こうとしなかった。微妙な雰囲気が場に流れる。
──なんか、不思議な感じの子だ。どう表現したらいいのかわからないけれど、その瞳は私たちを通り越してどこか遠いところで焦点を結んでいるように思える。
「……と、まあ、少々無口ではあるのだが。その頭脳が恐ろしく冴え渡ったものであるということは私が保証しよう。それに同じ年代の者同士、話しやすいこともあるだろうからな。ではすまないが仕事があるので、私はこれで」
大人たち四人が出て行き、場には私たちと難升米が残された。
みんなはそれぞれ難升米を見てこっそり肩を竦めたり、首を傾げたりしている。特異な雰囲気を持つ美少女に対して、どう接して良いものか図りかねているみたいだ。
「えっと……よろしくね。俺は松風天馬」
天馬が先陣を切って自己紹介したけれど、難升米は瞬きをひとつしただけで、会釈も何もしなかった。
再び流れた沈黙を縫うように、狩屋がぼそりと呟く。
「口がきけないんじゃないすか？」
「行きたいところはある」
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
