【イナクロ】君へ贈る旋律第十六楽章【神童拓人】 (ページ13)

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720　国を動かす人々ページ13

「さて、では改めて挨拶をしよう。私は邪馬台国の女王、名を日之芽(ひのめ)。肩書きは日ノ巫女。巫女といっても、特別な力を持っているわけではない。政治経済、財部に関する諸々の最終決定権を有している……と言えば、少々偉そうかな」

肩をすくめるその仕草はごくごく自然で、気さくだった。

日ノ巫女、というよりは、やっぱり『日之芽さん』という感じだ。私はそんなことを考えていた。

「この度は不弥(ふみ)国から、我が国の体制を学びたいということでの訪問、誠に嬉しく思う。不手際で情報の伝達がうまくなされていなかったようだが、それは君たちの気にすることではない。
　意欲のある、将来有望な若者が訪ねてきてくれて嬉しいよ。存分に学んで、故国の発展に奇与してくれ」

「ありがとうございます。女王様の寛大なお心遣いに感謝致します」

神童が床に指をついて深々と頭を下げたのに合わせ、私たちも同じようにした。こんな時の振る舞いや機転は、神童が一番優れている。

日之芽さんは頷くと、少しだけ居住まいを正した。

「さて、では我が国の幹部を紹介しよう。
　まずこちらは私の実弟で、名を久米彦(くめひこ)。肩書きは女王補佐官。頭の切れる男で、私はその頭脳にいつも助けられている。眉間にしわを寄せているのはいつものことなので、あまり怯えないでやってくれ」

紹介された久米彦さんが一礼する。指摘されたからなのか、眉間のしわは解かれていた。

「そしてこの大男が壬麻斗(みまと)。肩書きは軍司令官。彼の指揮は見事なもので、その勇姿を多くの兵が慕っている。常に仏頂面だが、胸の内に秘める思いは熱い」

隻眼の男性が頭を下げた。改めて見ると、上背は百九十センチに届きそうなくらい大きい。

「今紹介した二人は、前世で因縁の仲ででもあったのか、顔を突き合わせるやすぐ口論になる。そんな場面を見たら止めてくれないか。客人の前では、さすがに大人しくするだろうから」

初老の女性が、くすりと笑みを漏らした。男性二人は居心地が悪そうに、日之芽さんに視線をやる。

私たちは二人の顔を見比べた。頭脳派の久米彦さんと、武闘派の壬麻斗さん。確かにそりが合わなさそうではある。

「そして最後に彼女が、女官長の伽与(かよ)。祭事や文化の方面などを司ってくれている。何か必要なものがある時は、彼女に申しつけてくれ」

伽与さんは笑顔で会釈した。右頬のえくぼが素敵な人だった。