718 女王の統べる町 ページ11
「日ノ巫女様だ！」
「ありがたや、ありがたや……」
「日ノ巫女様ー！」
日之芽さんはできるだけ多くの人に挨拶し、二言三言声をかけていた。
一人一人の名を呼び、目を見て、肩を抱いている。私たちはその真摯な姿勢に感銘を受けていた。
日之芽さんは田畑や工房といった施設を案内してくれた。さらにどのような管轄の元、どんな風に仕事が回っているかをわかりやすく教えてくれた。
難しい話までは理解できなかったけれど、合理的かつ平等な体制が敷かれているのは一目瞭然だった。
私たちに向けられる住民の目もあたたかかった。「よう来なすった」とすれ違いざまに声をかけられるたび、私たちは「ありがとうございます」と会釈で返した。本当の学徒じゃないだけに、少しだけ心が痛んだけれど。
市場にさしかかったとき、「少し買い物をしたいが、いいか」と日之芽さんが問いかけてきた。私たちが頷くと、日之芽さんは青果店で桃をたくさん買っていた。
お店の主人とみられる男性は「お金はいりません」と首を横に振る。日之芽さんはその手に、優しくお金を握らせた。
「これらの青果は、皆が汗水流して働いてくれたからこそできたもの。その働きに見合う代価を払わせてくれ」
男性は恭しく日之芽さんから代金を受け取ると、「このお金は使わずに大切にとっておきます」と言って、にっこりと笑った。
「みんなから信頼されてるんだね」
「ああ。公正で平等な、民衆に寄り添う政治を行っているんだろうな」
私の呟きに、神童は頷いた。
邪馬台国を統べる若き女王の力が、この短時間でありありとわかった。私はこの人のオーラを受け取るのかと、どこか茫洋とした気持ちになる。
日之芽さんを一目見ようと集まってきた人たちで、市場が混雑してきた。
と、そこにどこからともなく屈強な男性たちが現れて、人混みをうまくさばき始める。
「ああ、
日之芽さんに壬麻斗と呼ばれた男の人が一礼した。右目に眼帯のようなものを付けた、強面の人だった。
「寄り道をしてしまったな。さあ、館へ行くか」
日之芽さんは私たちを促して歩き出す。日ノ巫女を称える声は、それから館に着くまでずっと途切れなかった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月29日 12時
