664 親とは ページ7
「ねえ、親になるってどんな感じ？」
父さんが、ぎょっとして私の方を見るのが気配で分かった。あまりにも突拍子過ぎる質問かとも思ったけれど、私は黙って父さんが答えてくれるのを待った。
今回の旅で、私は二組の親子を見た。ロックスターとビッグ、そしてトーブとそのお父さん。
どちらも時に優しく、時に厳しく、何より慈しんで子育てをしていたのだと思う。それぞれの形で子供の元を離れた、離れざるを得なかった二人の親は、今どんなことを思っているのだろうか。
父さんはとても長いこと、答えを探していた。この場で言うのに相応しい言葉を、必死で組み立てているようでもあった。
変なこと聞いてごめん、やっぱりいいよ。そう口に出しかけるほどの時間が経ったころ。
「純が生まれた時、その小さな手を握って思った。この子には幸せなことだけ経験してほしい、辛いことは全部自分が肩代わりしてあげたい、と」
小さな声で父さんは言った。
肩代わり。その言葉に私は顔を上げた。父さんは前方に視線を据えたままだった。
「その気持ちはずっと変わらなかった。今だってAが怪我したのを、自分のことのように辛く思う。ごく自然にそう思える。親になるというのはつまり、何を置いても守りたい存在ができる、ということだと感じている」
父さんは私たちのことを守りたいと思っている。むずがゆいような温かな気持ちが、ゆっくりと体を巡っていった。
「……今の言葉、あんまり真に受けないでくれ。上手く説明できない。母さんに聞けば、もっとちゃんとした答えが返ってくると思う」
「ううん。ありがとう」
私たちはそれからまた、無言で家路を歩いた。小学生の一団が、んにぎやかに笑いながら私たちを追い抜いていった。
親子という話からはズレるが、私の頭には神童のことが思い浮かんでいた。
神童が怪我をするくらいなら私がそれを受ける。そう言った時の、烈火のごとく怒った神童の顔。
痛みや苦しみを引き受けたいというのはそんなに悪いことなのだろうか、とその時は思っていた。だけど私の言葉は、褒められる類のものではなかったのだ。
明日、神童にどう弁明すればいいものか。長旅で疲れた頭では、うまく考えをまとめることができなかった。
そうして母さんに同じことを──親になるのはどんな感じか──聞こうと思っていたけれど、神童のことを考えているうちにいつの間にか忘れてしまっていた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
