706 日本最古の女王 ページ49
今から約二千年前の日本・倭国──その所在は九州とも畿内とも言われている──は、三十ほどの小国家に分かれていた。それぞれの国を男王が治めていたが、長い間、国同士の争いは絶えなかったという。
そうして200年代の初め頃、一人の女性を倭王として共立することで諸国がまとまった。その女性こそが卑弥呼。彼女は鬼道と呼ばれる不思議な力を用いて民を導いていたとされている。
有名な活躍といえば、魏──当時の中国に使者を送り、皇帝から『親魏倭王』の称号と金印が贈られたというものがある。いや、逆にそれくらいしかわからない。
「生まれた年も死んだ年も不明。彼女についての記述は、魏志倭人伝という中国の歴史書の中に僅か数百文字しかない。とにかく謎に包まれた人物なんだ」
「しかし、国をまとめ上げて王として君臨した女性だ。相当の腕を持っているはずだ」
ワンダバの口にした王という単語に、私の中にはアーサー王の姿が浮かんでいた。
王と一口に言っても、両者の性質は異なるだろう。卑弥呼はどちらかというとシャーマン的な立ち位置だったようだから。
「茜、キドウってなんだ？」
「妖術」
「妖術だあ？ そんなんで国をまとめられんのかね」
水鳥の言うことにも、まあ一理ある。本当は王として君臨していたのは男で、卑弥呼は霊媒師的な立ち位置から政治を助けていたのではないか、という説もあるようだから。
「アーティファクトは、また豪炎寺に頼んでおく。出発は明日、メンバーもそれまでに決めておく。各自、コンディションを整えておくように」
「「はいっ！！」」
ひとまずその場は解散という運びになった。私はしばらくその場に突っ立って、自分の中に生まれた決意を見つめていた。
＊
決意は固まったが、不安が完全に拭えたわけではない。
私は神童を誘い、サッカー棟でギリギリまで特訓に付き合ってもらった。
しかし必殺技は完成しなかった。あと一歩のところまで来ているのだが、今一つ踏ん張りきれていないような感覚がある。
「気持ちはわかるが、今日はもう終わりにした方がいい。明日は弥生時代にタイムジャンプするんだからな」
まだ特訓し足りないという私の顔を見て、神童が柔らかく窘めた。後ろ髪を引かれる思いではあったけれど、私はそれに従った。
荷物をまとめているとき、ポケットに入れていた携帯が鳴った。クロエからの電話だった。クロエはちょっと前から、お母さんのお古の携帯を持たせてもらっている。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
