704 さらなる強化を ページ47
「行くぞ！」
神童の掛け声に合わせて、私は走り出す。
ボールが高く蹴り上げられた。アイコンタクトを交わし、同時に右腕を振るう。
空中に浮かんだボールから七色の旋律が巻き起こる──かと思われたが、それは途中で霧散した。
ひとまずそのまま同時にシュートしたものの、ゴール前で構えていた三国さんに難なく止められてしまう。
「ダメか……」
私は息をついて、額に滲んだ汗を拭った。
絵本の世界から返ってきて二日。私と神童は合体技の特訓に注力していた。
しかし、これがなかなか上手くいかない。エクストリームラビットを編み出した天馬とフェイにコツを聞いたりもしたが、二人とも感覚でプレーするタイプのようで、直接のヒントは得られなかった。
「シュートするタイミングで、Aがワンテンポ遅れているように見えた。そこを意識してみたら、完成に近づくかもしれない」
三国さんの言葉に、私は頷いた。真正面からシュートを受ける人の意見は参考になる。
「もう一度お願いします！」
「よし、来い！」
神童と頷き合う。ボールを追いかけているときは、心は凪のように落ち着いていた。
＊
練習後ミーティングルームにて、私たちはこれからの作戦を練った。
時空最強の力も、残すは一つ。最強のイレブンを作り上げるまであと一歩のところまで来ていた。
「灼熱の熱風と激震する雷鳴の力で全てを貫くオールラウンドプレイヤー、か……いかにも強そうぜよ！」
「次の目標は誰なんですか？」
天馬の問いかけに、しかし大介さんは答えなかった。空中に浮かんだままでじっとしている。
そんな大介さんに、葵が声をかけた。
「どうしたんですか？」
「……いや、ちと考えておったんじゃ。もう一つ別に、さらなる時空最強の力を手に入れて、チームを強化する必要があるかもしれんとな」
その言葉に、私たちは首を傾げた。さらなる力とはどういうことだろう。最後の目標はまだ達成できていない。
全員の疑問を代表して、狩屋が口を開く。
「11の力はいいんですか？」
「それはわしの描いた時空最強の力の中でも、ひときわ夢まぼろしに近い。全てを兼ね備えた人間など、まあいないだろう。それぞれの欠けたところを補ってこそ、チームとして成り立つとわしは考えておる」
確かに、その通りではある、人は完璧でないからこそ、他の人たちと手を取り、助け合っていくのだ。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
