700 託された力 ページ43
「──その目が本当のマスタードラゴンやんね」
身体を起こした黄名子は、そのままマスタードラゴンの方に向かって歩いていく。
「黄名子……！」
「大丈夫大丈夫！」
傷だらけの顔に笑みを浮かべて、黄名子は歩を進めた。
黄名子が湖の傍に立った時、マスタードラゴンの身体が発光した。それはみるみる大きく強くなり、黄名子を包み込んだ。
それは眩く、温かな煌めきだった。
光が起こったのはほんの数秒のことだった。しかしその中では、何らかの対話があったのかもしれない。
青白かった光の色が黄金に変化する。それが晴れた時には──黄名子の姿は変化していた。
雄大な稲穂を思わせるアイボリーの髪、知性を携えた碧眼。
マスタードラゴンがその力を黄名子に授けたのだ。9の力……野獣の獰猛さと賢者の頭脳を。
「よし──これからが本当の勝負！」
黄名子は振り向いて、ガッツポーズを作ってみせる。
神秘的な光景に心を奪われていた私たちはそれで我に返り、足に力を込めた。
試合再開。完璧なパスで切り込んでくるパーフェクト・カスケイドの前に、黄名子が飛び出した。
「『キラキライリュージョン』！」
そうして敵のプレーをカットすることに成功する。ボールは天馬に渡った。
「うち、分かったやんね！ 一人で抱え込んだらダメだって！ だから、キャプテンも元気出すやんね！」
弾かれたように顔を上げた天馬は、ドリブルで切り込んでいく。行く手を阻まれたところに、サイドから錦が駆け上がってきた。パスが繋がる。
「わしらはおまんを信頼しとるぜよ！」
「天馬は僕らの横にいる！」
「僕らだって、天馬の横にいるんだ！」
フェイ、太陽を経て、ボールは私の方へ飛んでくる。
私は走り出した。みんなの天馬に対する思いが、このボールに詰まっている。途切れさせるわけにはいかない。
「向いてるとか向いてないとかそんなんじゃない──他の誰でもなく、天馬だからこそ、私たちは一緒にサッカーをしたいって思ってる！」
そう、全員で支え合っているのだ。天馬が挫けそうになったときは、私たちが後ろを守る。一人だけに背負わせたりなんてことはしない。
だって……それが『雷門』なのだから。
「俺たちの想い──受け取れ！！」
神童から天馬にパスが繋がる。
天馬は走り出した。その瞳に迷いはなかった。みんなの声が届いたのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 232人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
