698 自分の力 ページ41
「それは僕たちも同じです。けれど点差は二点、必ず取り返せます。そのためにはAさんの持つ、流れをこちら側に引き寄せる力が必要なんです」
私が顔を上げると、太陽がしっかりと頷くのが見えた。
──流れを引き寄せる力。あるのだろうか、それが私の中に。
「俺も太陽も、お世辞や慰めでこんなことを言っているんじゃない。今の雷門に、欠けていいメンバーなんていないんだ。もちろんA、お前も」
神童の真っすぐな瞳を見つめ返す。
みんなが、私を信じてくれている。頼れる仲間として。
だったら……私が塞ぎこんでいる場合じゃない。勝利へ向かって、どこまでも駆け続けなければいけない。
私は神童と太陽、それにクロエに向かって頷いてみせた。
恐れが完全に消えたわけではなかった。空元気なのかもしれなかったけど、自分を奮い立たせるためならなんでもよかった。
両者がポジションに着く。
レイ・ルクが規定事項を読み上げるかのように、淡々と宣戦布告してくる。
「パーフェクトカスケイドは、常に完璧な勝利を目指す。君たちに希望は残さない」
後半戦開始。
フェイがドリブルで攻め上がるのに反応し──レイ・ルクの背後から、あの化身が飛び出してきた。
「『人工化身プラズマシャドウ』」
いや……レイ・ルクだけじゃない。他の十人の背中からも次々と同じものが現れる。
コピーペーストしたかのように、全く同じオーラを持ったそれら十一体は、赤黒の電子をひしめかせていた。
吐き気にも似た恐怖が背中を駆けあがっていった。一体でもおぞましい化身が十一体も同時に出現するだなんて。
「「《アームド》」」
しかしそれだけでは終わらなかった。プラズマシャドウは黒い光の束となって、パーフェクト・カスケイドの身体にそれぞれ収束していく。
──全員が、化身アームド。先ほどとは違う種類の脅威が、雷門を襲った。
「「『ディフェンスコマンド14』」」
三人の選手が一斉にフェイを取り囲んだかと思うと、目にも止まらぬ速さで動き出す。
そうして一瞬にしてボールを奪ってしまった。超速でこちらに切り込んでくる。
みんなは攻撃を食い止めるべく動き出した。しかし私の足はその場に縫い付けられたままだった。
私が行ったって止められないのではないか。あの化身を身にまとったパーフェクト・カスケイドには適わないのではないか。
流れを引き寄せる力なんて私にあるわけが──そう思いかけたその時。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 232人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
