662 大きい決断 ページ5
あの時、自棄になって神童を庇ったつもりはない。
だけど今言ったことは本心だった。神童はチームになくてはならない存在だから。神童が怒っている理由を、私はうまく言語化することができなかった。
「あ……わ、悪い」
「ううん……」
我に返って頭を下げた神童に、私は首を横に振る。
当てがわれた氷嚢の冷たさが、身にしみる気がした。
また少し成長したクロエが私のことをじっと見つめているのに、その時の自分は気が付かなかった。
＊
「トーブくん！ 君のご家族が見つかったぞ！」
キャラバンの前に集合するとそこにはアルノ博士がいて、トーブの家族の無事を知らせた。
これでトーブは家族の元へ帰れる。しかし本人はその吉報を前に、喜んだ様子は見せなかった。
「どうしたの、家族のところへ帰れるんだよ？」
「悪いけど……おらは帰らねえ。おら、今の生活気に入ってんだ！ それと、家族ならいるしな！」
振り向いたトーブの視線の先で、育ての親であるお父さんが鳴いた。
血の繋がった両親より、種族は違うがずっと一緒に育ってきた親を選んだのだ。この時代にずっと生きてきたトーブだからこそ下せる決断だった。
アルノ博士はその選択を尊重するように頷いた。
「そうか。それもまた人生じゃ。君のご家族には、わしが説明しておこう。いつか君が会ってみたくなった時に会いに行けばいい」
「なんか、おらのために色々とやってくれたのに、すまねえな」
気にするな、と、博士は呵々と笑った。
トーブは次に、天馬に顔を近づける。
「それよりさぁ！ おら、おめぇらと一緒に行きてえんだ！ おめぇらといるとウホウホくっぞ！ やってることも面白ぇし、おら、ついてくことにしたぞ！」
「え？ ついてくって……」
「「──ええっ？！」」
一瞬後、全員の驚愕の声が重なる。
ついてくるということはつまり、キャラバンに乗り込むということ。私たちの時代に赴き、雷門イレブンの一員として共に戦うことを指す。
そんな一世一代の挑戦をあっさり決めてしまえるところが、トーブらしいといえばらしいけれど。
だけど、そこで表情を曇らせたのはフェイだった。
「いいの？ ビッグを置いて行って……守ってやるんじゃなかったの？」
それに反応するように、ビッグが寂しげに鳴いた。
ビッグのことは心配するな──ロックスターの墓前でそう誓ったトーブであったが、フェイの問いに対して力強くこう言った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 232人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
