694 悲しき激闘 ページ37
「思い出せ、マスタードラゴン！ お前が人より気高く、賢き魂を持つものであることを！」
攻撃を避けながらも、王は言葉を投げかけ続ける。しかしドラゴンは低く唸るだけだった。
説得が無駄たと悟ったアーサー王は、エクスカリバーを抜いた。白銀の刀身が、微かな陽光を受けて光り輝く。
「やめて！ マスタードラゴンは、本当はいいドラゴンやんね！！」
それを見た黄名子が、檻の中から訴えた。それは鬼気迫る叫びだったが、王が剣を収めることはなかった。
「わかっている。だが、マスタードラゴンが民の災いとなるのなら──私は躊躇うことなく、エクスカリバーを振るう！」
「そんな……大人しくするやんね、マスタードラゴン！」
王と龍、両者が睨み合う。
エクスカリバーの輝きが増した。それを合図に、戦いの火蓋が切って落とされた。
ドラゴンの爪と剣がぶつかりあい、火花が散る。激しい争いを、私たちは見ていることしかできなかった。
王の動きには迷いがなかった。民と共にあったマスタードラゴンをせめて己の手で沈めようと、葛藤を呑み込んで剣を手に取ったのだ。
そうして、何度目かの切り結びの末──マスタードラゴンの身体が地に落ちた。
ドラゴンはそのまま、暗い湖へ沈んでいく。
「マスタードラゴン！」
鳥籠の檻が消滅する。地面に足がつくと同時に、黄名子は湖の方へ駆けた。
私たちは一連のことに圧倒され、ただ王と湖面を交互に見つめるしかなかった。
──これが、アーサー王。絶対的な勇気、揺るぎない実行力。知体ともに優れた、本物の英雄。
「かわいそう……マスタードラゴン、かわいそうすぎるよ……！」
ドラゴンの身体が湖の底へ沈んでいくのを見て、黄名子は拳を握り締めた。
王の決断も、やむを得ないものだったのだ。こうするしか道はなかった。幾千幾万の民を救うため、盟友を手に掛けたその心情を、私たちに推し量ることはできない。
「許せない……マスタードラゴンに、こんなことをするなんて！！」
「お前、何を企んでいる！」
「──知りたいか」
天馬とフェイに詰め寄られたダークドラゴンナイトは、ゆっくりと兜を脱いだ。
その顔を見て、私たちは身構える。坊主頭に、感情を排した四角い瞳──レイ・ルクだった。
「ダークドラゴンナイトは、仮の姿ということだ」
どんな生き物の命が散ろうと構わない。そんな非情さが目に見えてわかるようだった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
