692 私の中には ページ35
エルドラドとの戦いを経て、私自身は成長したと思う。
だけど敵はそれ以上を行く。周りのみんなも、どんどんパワーアップしていく。
もっと力をつけないと、と思う。みんなに比べたら私の成長なんてまだまだだ、と。
自分に才能がない、誇れるものがないと実感するのは辛かった。
才能がないならないなりに、他のもので置き換えることはできる。努力、勇気、知恵、機転。そういった要素を磨いていけば強くなれる。
だけどもし置き換えられなかったら、その時はどうすればいいだろう。諦めず頑張るか、それとも諦めてしまうか。
私はそのどちらも取らなかった。自分の身を差し出すことで、みんなに貢献しようとした。それは誰も幸せにならないことだと頭ではわかっていながら。
クロエはそんな私の姿に耐え兼ねて、あんなことを言った。私が言わせてしまったのだ。
──私は何も変われていない。前に進む足取りが、ぐっと重くなった気がした。
そんなことを考えているうちに、一同は龍の谷に到着した。
嘆きの谷の入口はここにある。そして最奥にはマスタードラゴンが待ち構えているはずだ。
＊
洞窟の中は暗闇が支配していた。一切の光が差さない中を、私たちは手探りで歩く。
「みんな、離れるな。ここはかつて数多の冒険者の命を奪った、嘆きの洞窟──迷ったら最後、永久に陽の光を見ることはできない」
アーサー王の言葉に、私たちは縮み上がった。道しるべも何もない中を進んで、無事に生還できる方が稀なのだろう。
陽の光を見ることが叶わなかった者たちの嘆きがそこかしこを彷徨うから、『嘆きの洞窟』という名がついたのかもしれない。
「みんな、足元と頭に気をつけて……！」
天馬がそう言った直後、ごつんという音がして、トーブの「頭ぶつけた！」という声が反響した。
「静かに」と、神童が人差し指を唇に当てる。不用意に大声を出せば、どんなことが起こるかわからない。
「きっとこれも試練──」
「やめい！」
茜が本を開きかけるのを水鳥が止める。確かに茜が試練の内容を読み上げたら、直後にそれと同じことが現実に起こっている気がする。
と、一瞬よそ見をしながら歩いていた私は、立ち止まった誰かの背中にぶつかってしまった。
ごめん、と謝ってから、それがクロエだったことに気づく。クロエは何も言わない。無視されているのかとも思ったが、違った。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
