688 蛇の道は ページ31
「お、俺蛇ダメなんですよ！ 誰か追っ払ってください！」
「天馬、なんとかして！」
「むりむりむり、なんともできない！」
私たちがやいやい言っている間にも、蛇はどんどん距離を詰めてくる。毒牙の餌食になるのは時間の問題だ。
「恐れるな！ 蛇ごときなんでもない！」
「んなこと言われても！」
アーサー王の言葉に、霧野の背中に隠れていた狩屋は力なく反論する。
そこで顔を上げたのは霧野だった。
「ワンダバ、ボールを倉間に！」
意図を理解した倉間は、「そういうことか」と、口角を持ち上げた。
「『サイドワインダー』！」
倉間の放ったシュートは、巨大な蛇のオーラをもってして蛇の大群に突き進む。
蛇たちは恐れをなしたのか、道を開けるように引き下がっていった。
「蛇の道は蛇ぜよ！」
「それはちょっと違うと思うぞ……」
とにかく今のうちに進むしかない。みんなが蛇に睨まれながらおっかなびっくり進んでいくのに、私もどうにかついていこうとする。
と、右手が取られた。神童だった。神童は私を勇気づけるように頷いてみせる。
「大丈夫だ。倉間の攻撃で毒蛇たちは怯んでいる」
「う、うん」
私は神童の手をぎゅっと握った。握り返してくれるその力強さが、私の心を少し落ち着かせてくれた。
蛇の方をできるだけ見ないようにして、早足に進む。最後尾では狩屋が脂汗を流しながら、天馬と葵と一緒に歩いてきていた。
谷を抜けて数十メートル進んだところで、私たちは息をついた。
「はぁー……心臓バクバクだぜ」
「そうかぁ？ うまそーな蛇だぞ！」
そう言って差し出されたトーブの右手には、仕留められた蛇が一匹。
それを見た狩屋は、また長い悲鳴を上げたのだった。
私は逃げ回る狩屋をぼんやりと目で追いながら、考える。
──なんか、この世界に来てからみんなに頼りっぱなしだな。
さっきの倉間もそうだし、神童と太陽もそう。クロエも、私よりずっとこの世界でどうするべきかをわかっている。
もっと私にできることを見つけないといけない。平々凡々な私にも、できることを。
「えっと、次の試練は──」
「ま、待て！」
水鳥が止めたが、遅かった。茜は蛇のシーンの次のページを読み上げる。
「『騎士達の行く手を阻む、燃え盛る炎』」
茜がそう言い終えた瞬間──岩肌から突如として、轟々と燃え盛る炎が噴き出てきた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
