661 自分の判断 ページ4
「理解したか。実力の差を」
パーフェクト・カスケイドは既に所定のポジションに戻っていた。その顔には当然と言うべきか、汗一つ浮かんでいない。
──特訓で強くなったと思ったのに。相手の強さが常識外れすぎる。
後半戦、残り十五分ほど。七点の点差を巻き返せるか？ 私たちは今度こそ、また大切なものを失ってしまうのだろうか。
「緊急事態だ、戻るぞ！」
と。試合の様子を見ていたサカマキが突然言った。
「イエス。本部からの情報を受信。こちらも状況を把握」
それに対しレイ・ルクは淡々と応じる。
そうしてパーフェクト・カスケイドの面々は、何も言わずに姿を消した。突然の試合放棄に、私たちはぽかんと口を開けて、無人になった相手コートを見た。
「ひとまず、追っ払ったってことかな……」
「いや。見逃してもらった、と言うべき状況だな」
信助の言葉に剣城がそう返す。
点差は七点、こちらは全員満身創痍。たとえ最後まで諦めなかったとしても、こちらの勝利は絶望的なものだった。
「でも、俺たちだって十分に……！」
「ああ。敵の最強チーム相手に、なんとか戦えた。もっと特訓してレベルアップすれば、サッカーや円堂監督を、きっと取り戻せるはずだ」
神童の冷静な分析に、天馬は少し肩を落として頷いた。
ひとまず最悪の事態は回避できた。私はほっと胸を撫でおろす。ただ向こうはまた襲い掛かってくるだろう。その時に対処できるよう、私たちは特訓を続けなければいけない。
「とにかく、A。右足を冷やそう」
神童にそう言われ、私は肩を震わせた。みんなの驚愕の視線が集中する。
私は観念して息をついた。そうして肩を借りながらベンチへ向かう。
足首は赤く腫れあがっていた。氷嚢を当てがおうとした葵が小さく息を呑む。
「ばれてたんだね」
「すまない。あの時に俺が……」
「謝らないで。こうなったのが私でよかったよ」
神童が勢いよく顔を上げたのが視界の端に映る。私は患部を見つめたまま口を開いた。
「神童はチームの司令塔だから、負傷したらきっとチームの連携に穴が開く。そんな事態になるくらいなら、私が怪我した方がいい──そう思ったから」
「っ、そんな言い方はないだろう！」
鋭い声に、身体が強張る。神童は歯を食いしばりながら私のことを見つめていた。私もみんなも何も言えず、そんな神童を見つめていた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
