687 行く手を阻む試練 ページ30
「俺は喉が渇いた……」
「妖精なら、食べ物とか飲み物出せないのか？」
「無理。ビビアンにそんな魔力ない」
ビビアンはあくまでもエクスカリバーを賦活させるだけの役どころということだろう。
「もう一歩も歩けんぜよ……」
そうしてとうとう、みんなの足は止まってしまった。
かくいう私も、体力が限界に近づいている。膝に手を当てて息を整えるのがやっとだ。今すぐメイド服を脱ぎ捨ててしまいたい。
あとどのくらいなんだろう、休憩は入れないのだろうか。後ろ向きなことばかり頭に浮かんでしまう。
「みんな、気合を入れるんだ！ ダメだと思ったら歩けなくなるぞ！」
「そうです。みんな立ち上がってください！」
そんな私たちに、神童と太陽が喝を入れた。
そうしてクロエも、私の脇を支えて立ち上がらせながら、汗一つ浮かんでいない顔で言う。
「二人の言う通り。それにどのみち嘆きの洞窟まで行かないと、私たちの目的は達成できないよ」
私はクロエの横顔を見つめる。
こんな風に、仲間を鼓舞できるまで成長したのだ。物理的にも精神的にも。
どこか誇らしく、それでいてなぜか切ない気持ちが、自分の胸の中に起こるのがわかった。
みんなは疲れた体に鞭打って立ち上がった。そうして汗を拭い、洞窟へと再び歩を進める。
＊
頑張ろうと決意したのはいいが、道のりが険しいことに変わりはない。
太陽の光が高い岩に遮られたことで、少しだけ歩きやすくなった。谷間を進んでいるとき、不意に茜が「もしかして」と言って立ち止まる。
「どうした、茜……じゃなかった、妖精ビビアン？」
「これは試練」
ビビアンは手に持っていた本のページを繰った。
「『嘆きの洞窟を目指す騎士達の苦しい旅、行く手を毒蛇が遮る』──」
「ぎゃあああああっ？！」
文章を読み上げる声に被せるように、悲鳴が聞こえた。狩屋のだ。
前の方を歩いていた狩屋はすさまじい勢いで後ずさりして、神童と霧野に両脇を支えられる。そうされていないと今にも腰を抜かしてしまいそうだった。
「へ、へ、へ、へ──へび、へ、蛇っ！！」
振るえる指がさし示す先。それを追った私たちも、それぞれに短い悲鳴を上げる。
軽く百は超えようかという蛇の大群が、赤い舌をチロチロと出してこちらに向かってきていたのだ。
先に進んでいたアーサー王とは完全に分断された形になってしまった。あまりにおぞましい光景に、首筋に鳥肌が立つ。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
