685 八つ当たり ページ28
「そういうことでしたら、私たちメイドも共に参ります。姫様のお世話は、お任せを」
「ああ、頼む」
クロエは優雅に一礼した。私もそれに倣ってから、小声で話しかける。
「メイドも一緒についていくんだっけ？」
「その辺の描写はなかったけど、みんなが行くのに私たちがお城に残ってても仕方ないじゃん」
確かにその通りだ。クロエはこの状況に対し、臨機応変に対応できている。
そうして私たちは、入念に出発の準備をした。嘆きの洞窟までの道のりはきっと遠い。
＊
お城の外には既に馬車が到着していた。錦が手を挙げながらそこに近寄っていく。
「おーい、御者さん！ そろそろ出発の──」
「ああん？」
じろりと睨まれた錦は一瞬怯んだが、その顔を見て「おまんかいや！」と目を丸くした。
むっつりと不機嫌そうな顔をしたその御者は、
「水鳥！」
……だった。
なんで自分は御者でお前は騎士なんだ──錦に向かってそうまくしたてている。
与えられた役が不服なのだろう。確かにタイムジャンプ前に本を読んだ時には、水鳥はお姫様に憧れていた。
「……んで、何の用だよ？」
「出発じゃきに、メローラ姫がそろそろ──お、来よったぜよ！」
錦の視線を追って、水鳥がこちらを向いた。
メローラ姫を導いてやってきた私に、水鳥は怒りをあらわにする。怒りというか八つ当たりなのだが。
「なんで葵は姫君で、Aとクロエがメイドで、あたしが御者なんだ！」
「さ、さあ……」
この世界での役割は、誰がどんな風に決めたのだろう。それがもし神様であろうと、水鳥はけちょんけちょんにけなしてしまえるだろう。
王と姫、それに私たちメイドを乗せた馬車はゆっくりと動き出した。円卓の騎士たちがその周りを守るように歩く。
一行は最初にエクスカリバーの魔力を復活させるべく、妖精の森の湖へと向かった。
＊
湖は静謐な空気をたたえて、森の中にあった。自然と息を潜めてしまうような雰囲気がある。木々のざわめきも生き物の息遣いも感じられない。
一同は湖の前に立った。湖面は透き通っていたが、水深があるのか、底の方まで見通すことはできない。
「湖の精霊よ、エクスカリバーに今再び力を！」
アーサー王は言って、剣を湖の中に投げ入れた。
水面に波紋を浮かばせながら、湖はエクスカリバーを呑み込む。
しかし待ってみても、何も起こらない。もしや場所を間違えたんじゃないかと思い始めた時。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
