684 出立の時 ページ27
「やむを得ぬ場合は──エクスカリバーで、マスタードラゴンを退治する」
私は生唾を呑み込んだ。
マスタードラゴンが倒されてしまえば、9の力を手に入れる手立てがなくなってしまう。私たちはそうならないために立ち回る必要があった。
しかし狩屋たち一年生は、エクスカリバーという単語に興味をそそられたようだった。部屋の最前部に据えられた長剣に視線を向けている。
王は立ち上がって、エクスカリバーの方へ歩み寄る。みんなもそれに続いた。
あらゆるものを切り裂くことができる聖なる剣。そう前置きして、王は剣を鞘から抜いた。
おおっ──という歓声は、しかしすぐに萎んでいく。
聖剣エクスカリバーの刀身は錆びだらけで、あちこちが欠けていた。これではドラゴンどころか、その辺の木を切りつけただけでもポッキリと折れてしまいそうだ。
「これが、聖なる剣なのですか？」
「かつて私はこのエクスカリバーで、多くの魔物たちを打ち倒してきた。しかし祖国のために戦い続けるうちに傷つき、今は魔力を失ってしまっている」
歴戦の結果、ということらしかった。
しかしこれではあの龍に太刀打ちすることは適わない。天馬が僅かに身を乗り出した。
「そんな……本当にこの剣で、マスタードラゴンを倒せるんですか？」
「案ずるには及ばぬ。妖精の森の湖で再び魔力を与えてもらえば、エクスカリバーは蘇る」
さあ、出発だ──王がそう言いかけた時。
「お待ちください、父上！ 私もお供致します！」
扉が開いて、葵……メローラ姫が入室してきた。
私とクロエは目配せして、姫の後ろを追従するように歩く。姫は真っすぐに王の前へ歩を進めていた。
「ちょ、それは危険だよ葵──いえ、危険です、メローラ姫」
天馬が姫を止めるのに対し、姫はアーサー王には聞こえない声で耳打ちした。
「絵本には、メローラ姫も一緒に行くって書いてあったのよ」
「だけど……」
「メローラ姫を演じ切ることが、この世界で私がやるべき役目でしょう？」
葵は王の目を真っすぐに見つめる。その瞳には強い決意が浮かんでいた。
「父上、彼女は私の身代わりとなって連れ去られたのです。私もお供させてください！」
「──うむ、よかろう！ ついて参れ！」
娘の気持ちを汲み取った父は、そう言って頷いた。葵の顔に光が灯る。
そこでクロエが、サッと前に出て一礼した。そうして王に向かって微笑みかける。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 232人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
