683 握られた命運 ページ26
「我ら円卓の騎士──王たちをお守り致します！」
神童がシュートを打ちこんだが、ドラゴンはそれを手であっさりと跳ね返してしまう。
次いで太陽が撃ち返したが、これも結果は同じだった。
すると……黒騎士の右手に、紫色の妖しい光が浮かんだ。
球体の光は一直線に、城の中へ退避しようと駆ける葵に向かっていく。
「姫！」
私の身体は自然と動いていた。光と葵の間に身体を割り込ませる。
物語の流れでいうと、ここで葵は黒騎士に攫われるべきなのだろう。だけどそれを黙って見ていられるかと聞かれたら、話は別だった。
しかし、そんな私の身体をさらに誰かが突き飛ばした。その人物は光の中に取り込まれ、大きなシャボン玉の中にいるように空中に浮かんだ。
「──黄名子！」
手を伸ばすも、届かない。黄名子はマスタードラゴンの手の中に吸い込まれていく。
「「『エクストリームラビット』！」」
天馬とフェイのシュートがマスタードラゴンの顔面に直撃する。ドラゴンは一瞬だけ怯んだが、しかしそれだけだった。
ドラゴンは私たちに背を向ける。最後に黒騎士が言った。
「──この娘を助けたければ、嘆きの洞窟へ来い！」
龍の姿が線となり点となり、やがて見えなくなる。
私たちはその場にただ立ち尽くすしかなかった。黒騎士に対抗する術を、何も持っていなかった。
「黄名子ちゃん……！」
葵の黄名子を呼ぶ声は、涙に潤んでいた。
＊
巨大な騎士の像が並ぶ物々しい部屋で、円卓会議は行われた。
アーサー王を上座にして、大きな円卓をぐるりと囲むようにみんなが座っている。天馬とフェイも、円卓の騎士の一員として鎧を身にまとっている。
私とクロエは扉の傍に控え、会議の行方を見守った。
「マスタードラゴンは賢者の知恵を持つ、我々の守護聖獣だ。人間を襲ってくるとは解せぬ」
王の言葉を聞きながらも、攫われた黄名子のことが気にかかった。
黒騎士の手中に陥るのはメローラ姫のはずたったが、イレギュラーとはいえ物語は進行しているようだ。無事でいてくれればいいのだが。
「一体、何が起こっているのでしょう？」
「わからぬ……もしかすると、世界に災いが訪れる前触れなのかもしれない」
それを知るためにも、マスタードラゴンの住む嘆きの洞窟に向かう。攫われた騎士、黄名子を救い出すために。王はそう宣言した。
そうして僅かに眉をひそめる。その顔からは葛藤が見て取れた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
