679 内に秘めるもの ページ22
「これ、恋物語じゃないからね」
「まあまあ、いいじゃん」
「そういうクロエこそ、剣城とどうなの？ いつも一緒にいるけど、告白したいなーとかならない？」
「好きだけどさあ、彼女が人間じゃないって、剣城が可哀想じゃん」
クロエの口調がごくごくあっさりしたものだったから、私はそれ以上何も言えなくなった。
自分の気持ちを必死に押し殺して平気な風を装っているのか、それとも本当に大したことと思っていないのか、その横顔からはわからない。
「では、入団テストを始める。今回の種目は──サッカーだ！」
アーサー王の言葉に、私はぎょっとした。このファンタジーの世界にはあまりにも不似合いな単語だった。
見れば王の左手には、ちゃんとサッカーボールがある。
「パラレルワールドが作られる時に、私たちの持ち込んだサッカーという概念がこの世界に組み込まれたんだろうって、大介さんはおっしゃってました」
そういうわけか。
しかしサッカーというのはぴったりかもしれない。私たちの中の誰も、馬に乗ったことも剣を振るったこともないわけだから。
そこからはテストのための準備が進められた。天馬たちは、フェイのデュプリの力を借りて試合に臨むようだった。
鎧を脱いでユニフォームを身にまとったみんなが、白線の引かれたフィールドに飛び出していく。
「私も参戦できたらなあ」
「メイドさんがさすがに入団テストに乱入するわけにもいかないしね」
私のぼやきに、クロエがそう返した。わかってる。ちょっと言ってみただけだ。
私たちの役割は、メローラ姫の身の回りのお世話と雑事全般といったところだろう。今はそれに徹しなければ。
アーサー王がバルコニーに出た。葵がその後ろに、私たちはそのさらに後ろについて歩く。
気付いた天馬がこちらを見て、目を丸くした。
「あっ！ 葵──」
天馬の言葉は、黄名子に手で口を塞がれたことによって遮られた。
今はメローラ姫と呼ばないといけない……きっとそう言われているのだろう。
みんなの顔は活き活きとしていた。しがらみなく本気でプレーできるのだ、晴れやかな気持ちにもなるだろう。
「あの若者たち……果たして円卓の騎士となりうる力があるかどうか、楽しみだな」
「はい！」
アーサー王の言葉に、葵が頷く。
物語を進めるためには、二人とも合格することが必須だろう。私は天馬とフェイがテストを無事にパスできることを心の中で祈った。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
