678 入団試験 ページ21
「クロエ、さっき初めてあの本読んだのに、もう細かいところまで頭に入ってるんだ」
「まあね。あ、でもタイムワープ中の最後の方のドタバタで、本どっかに失くしちゃったんだよね……音無先生が図書室から借りてきてくれたやつなのに」
しょんぼりと肩を落とすクロエが可愛らしかった。今の状況でそんなことを気にしているなんて律儀だ。
庭に面したバルコニーには、既にアーサー王がいた。その手前の部屋で、葵が控えている。
「あ、二人とも！ 天馬たちに会えました？」
「うん。みんなはもう下に降りたんだね」
「神童たちが円卓の騎士だって知ったら、天馬たちびっくりするだろうなあ」
クロエがいたずらっ子のような笑みを浮かべるのと同時、器楽隊の人が吹き鳴らすラッパが、晴天の下で高らかに鳴り響いた。
入団テストが始まる。私たちは王の数メートル後方に控え、成り行きを見守った。
アーサー王が一歩前に出て、見習い騎士の前に姿を現す。
「よく来た、勇気ある若者たちよ──名を名乗るがよい」
張りのある声が朗々と響いた。王を前にした見習い騎士たちは姿勢を正してそれに答える。
「松風天馬です！」
「フェイ・ルーンです！」
「うむ、どちらも良い名前だ。
私は常に優れた騎士を求めている。お前たちが我が宮廷の誇る円卓の騎士と戦い……その力を示すことができたなら、騎士として我が城に迎えよう！」
ありがとうございます──天馬がそう返事をするのが聞こえた。
テストと聞いた私の頭には、春先に行われた雷門サッカー部の入部テストの光景が思い浮かんでいた。まだ一年も経っていないのに、なんだかずいぶん昔のことのように感じる。
「では始めよう。我が王国が誇る最高の騎士団、誉れある円卓の騎士たちよ──ここに！」
王が勢いよく両手を広げた。
それを合図に、階下に控えていた円卓の騎士──神童たちが前に出る。その姿を見た天馬たちは、揃って驚愕の声を上げた。
「我々は円卓の騎士！ お前たちが同志となりうるか否か、その力を試させてもらおう！」
神童の振る舞いは、『騎士団長』の肩書きに相応しい、堂々としたものだった。私はその姿にしばらく釘付けになる。
「騎士団長とメイドの許されざる恋……しかし障壁が大きければ大きいほど、二人の愛が試されるのだ」
隣でクロエが勝手にナレーションをつけていた。私は視線を前に据えたまま、肩を竦めて呟く。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
