677 完璧な振る舞い ページ20
お城の敷地は広大だ。広間から外門へ来るのに10分はかかってしまっただろうか。
私たちは門の右端と左端にそれぞれ立って、天馬たちが来るのを待った。
お城の方から空砲が三発鳴らされた頃。道の向こうから目当ての人物がやってきた。
天馬にフェイ、ワンダバ。それぞれ中世風な、見習い騎士の素朴な格好をしている。私たちが立っているのに気が付いた三人は、駆け足でこちらにやってきた。
「A先輩、クロエ……！」
「二人はお城のメイドさんだったんだね」
「ほう、なかなか様になっているではないか！」
三者三様に言葉をかけてきた三人を前に、クロエはにっこりと笑った。クロエのにっこり笑顔には、何か人を惹きつける魔法のようなものがかかっていた。
「アーサー王の居城へ、ようこそお越しくださいました」
そうしてクロエは──両手でスカートを軽く持ち上げ、右足を半歩下げて優雅に礼をした。 完璧なカーテシーだった。
天馬たちも私も、しばしその仕草に見とれた。人形のような顔立ちのクロエがそういう行動をするのは、何か絵画的な美しさがあった。
私は我に返り、同じ仕草をした。クロエほど流麗な動作にはならなかったが。
「円卓の騎士の入団テストを受けに来られた方々ですね？ こちらへどうぞ。王がお待ちです」
城の方を手で示し、クロエは天馬たちを先導していく。
──完璧に役を演じられている。クロエにこんな演技の才能があったとは思わなかった。いや、場に適応する能力というべきか。
「あの、A先輩……ですよね」
天馬がそう声をかけてきた。私は笑って頷いてみせる。
「うん。私もクロエも、神童たちも無事。自分の記憶もちゃんとあるよ」
「よかったあ……最初目覚めたときは、わけがわからなくて」
自分自身が登場人物だなんて、すぐには信じられないだろう。でもとにかく、この分だと盗賊も無事に撃退できたようだった。
「こちらにて、しばらくお待ちください」
前庭に到着したところで、私たちは見習い騎士に一礼して城の中に引き上げた。
クロエは着慣れない服装でも、動きにくさを全く感じさせず軽やかに階段を上っていく。私は一段飛ばしでそれに追いつきながら尋ねた。
「この後ってどうするんだっけ？」
「すぐ入団テストが始まるから……私たちはメローラ姫のお傍に控えていればいいと思う」
そうだっただろうか。メイドは言わばチョイ役だったから、あんまり注目して読んでいなかった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
