676 裾を翻して ページ19
「──アーサー王！」
本で見たアーサー王、まさにその人がいた。
騎士風の服装の上から白いマントを羽織っている。年齢は四十代くらいかと思われるが、身体から滲み出る雰囲気は若々しい。
瞳には溌溂とした、それでいて理知的な光が浮かんでいる。押さえつけられるような威圧感はないものの、自然と頭を垂れてしまうような感じがあった。
見れば神童たちもその場に跪いている。騎士としてふさわしい仕草だ。
私とクロエも王に向かって一礼した。王は私たち一人一人の顔を見回した後、口を開く。
「入団テストの段取りは、つつがなく進んでいるようだな」
「はい。問題ありません」
「もうすぐ、円卓の騎士を志す若者たちがやってくる。騎士の名に恥じないよう臨んでくれ」
代表として口を開いた神童にそう言うと、アーサー王はマントを翻して立ち去っていった。
その足音が聞こえなくなってようやく、私たちは肩の力を抜いた。
「さすがアーサー王だな……相応の風格が感じられた」
「ああ。時空最強の力にふさわしい人物だな」
剣城と霧野の会話に、私は心の中で頷いた。
対面していたのはほんの三十秒くらいのはずだったのに、その威容はしっかりと心に焼き付いていた。人を、国を統べるべくして生まれた人といったような。
と、その時。クロエがサッと私の手を取って駆け出そうとした。
「さ、行こ」
「え？ どこに」
「お城の門。天馬たち……入団テストを受けに来る人たちを、私たちが迎えなきゃじゃん」
そういえばそうだった。若者たちはお城に着いたらメイドの案内を受けるのだった。なんでもないシーンだったから、あんまり覚えていなかった。
「じゃ、みんな、後でね」
クロエは片手を挙げてから、軽やかに駆け出していく。純粋にこの状況を楽しんでいるようだった。
早足で通路を歩く。クロエの後姿を追いかけながら、私はちょっと顔を綻ばせた。
──私のことを先導して歩くようになるくらい、大きくなったんだなあ。
滑らかな長い手足、形の整った指。背丈は私と変わらないぐらいになっているだろうか。
クロエはもう、手を引かれて歩いていた幼児ではない。そのことが改めて、私の中に実体を持って迫ってきた。
「早くしないと、天馬たち来ちゃうよ」
急かされて、私は歩く速度を速める。
庭に面した窓から入る光が、クロエの銀の髪を浮かび上がらせていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 232人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
