675 ここでの役割を ページ18
「私たちが……物語の登場人物？」
天井の高い大広間。大介さんの話を聞いた私は、言われたことをオウム返しにした。
他のみんなも、まだ完全には理解が追い付いていないのか、それぞれ首を傾げている。
「ああ。新たなパラレルワールドができる前にタイムジャンプしてしまったせいで、お前たちはアーサー王の物語の中に組み込まれてしまった──現状、そう考えるのが妥当だ」
すでに出来上がった世界に飛び込んだのではなく、今まさに現在進行形で物語が進んでいっている、その中に織り込まれたのが、私たちということか。
服装から推測するに、神童たちは円卓の騎士。葵はメローラ姫。そして私とクロエがメイド……。
「すげえ〜！ なんかウホウホくっぞ！」
その場で小躍りするトーブに、「呑気なもんだよ……」と狩屋が小さな声で漏らしている。
だけどトーブの気持ちもわかる。学芸会の劇とはまた違う感覚が、私の心を僅かにだが高鳴らせていた。
そこで私はふと、天馬たちがいないことに気が付く。神童に尋ねると、
「この城にはいなかった。恐らくあいつらは、円卓の騎士を志す若者の役割を与えられているはずだ」
そう返ってきた。
「じゃあ物語を進めていけば、水鳥や茜にもこの後で会えるっていうわけか……」
「とりあえず今はそれぞれに与えられた役割を演じて、世界を壊さないようにするしかなかろう。もし壊してしまうようなことがあれば、この世界自体がどうなるかわからんからな」
私たちは頷いた。世界が壊れるという表現は、一同の心を引き締まらせるのに十分だった。
「元の世界に戻るには、どうしたらいいんでしょうか？」
影山が挙手してそう発言した。
キャラバンはどこにも見当たらない。タイムジャンプもやり直せない。
そこで顔を上げたのはクロエだった。大きな青い目を瞬かせ、人差し指を立てる。
「物語を終わらせればいいんじゃない？ 終わらせるっていうのはつまり、私たちが各々の役割を最後まで演じ切るってこと」
「うむ、その通りであろうな」
大介さんが頷いたことによって、私たちのこれからの行動方針が決まった。
物語の世界観を壊さないよう、登場人物としての役割を全うする。そうして機を見て、9と10の力を手に入れる。
と。
「ここにいたのか、お前たち」
広間に誰かが入ってきた。深みがあってよく通る声だった。そちらの方に顔を向けた私たちは、ぎょっとして目を瞬かせる。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
