674 お城付きの ページ17
クロエは、部屋の両開きのドアを開けた。そうして左右をきょろきょろと見渡していたが、
「あ、神童……みんなもいる」
と言って、私たちを手招きした。
部屋を出ると左右に廊下が伸びていて、確かに通路の向こうにチームのみんなの姿が見えた。こちらは全員鎧を着ている。
私は胸を撫でおろした。どうやら無事なようだ。
「A、クロエ！」
「葵ちゃんもいるやんね！」
一同は、わらわらとこちらにやってきた。そうして私たちの姿に視線を走らせる。
私は咄嗟にクロエの背後に身を隠すようにした。メイド服姿をみんなに見られるなんて、どういう拷問だろう。
「三人ともお似合いです！ ね、狩屋くん」
「え、俺に振る？ まあ、似合ってるんじゃないですか」
「ありがと」
一年生に褒められたクロエは、にっこりと嬉しそうに笑った。
「空野がメローラ姫で、Aとクロエが城付きのメイドというわけか……」
「メローラ姫？」
霧野の口から出た単語に、私は反応した。
メローラ姫というのはアーサー王の娘にあたる人物のはずだ。それが葵？
「一度広間に集まろう。そこで状況を整理するんだ」
神童に促され、私たちは移動することにした。
歩きながら建物の中を見回す。お城のように豪華な内装だと思っていたが、どうやら本当にお城らしかった。窓からは広々とした前庭が見える。
廊下では時々、兵士と思しき人たちとすれ違った。どの人も私たちとすれ違う時に立ち止まり、お辞儀をしている。
一体何がどうなっているのだろう。そう考え込む私とは対象的に、クロエは剣城にメイド服姿を披露して「似合う？」と尋ねていた。
剣城は無言で頷いている。言わせられているという雰囲気もないから、きっと本心なのだろう。
ふと、隣を歩く神童と目が合った。
私はなんだか恥ずかしくなってしまって、顔の前であたふたと両手を振る。
「えっと……神童んちのメイドさんと比べると、やっぱ全然ぽくないよね」
「いや、その。可愛くて……正直、目のやり場に困っている」
可愛い。かけられた言葉に、私の心臓はぴょんぴょんと跳ねた。
神童にそう言われただけで、メイド服を身に着けることになってよかったと思えた。好きな人の言葉というのは魔法なのだ。
「おいおい、こんなところでもイチャつくなよな」
後ろから倉間にからかわれ、私たちは反射的に背筋を伸ばしてから苦笑いしたのだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 231人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
