673 奇異な格好 ページ16
「私……」
眉間に指を当てて、状況を整理しようと試みる。
葵は私が目覚めたことに安堵したのか、表情を幾分緩めてから口を開いた。
「キャラバンで気を失ったと思ったら、ここにいたんです。すごい豪華な部屋……」
つられて部屋を見回す。天蓋付きのベッド、ロコモ調の家具、日当たりのいいバルコニー。神童家と張り合えるくらい、いやひょっとしたらそれ以上の豪華な調度品が並んでいた。
ここは一体どこなのだろう。誰かが私たちをここまで運んできたのだろうか。
「それに、服装も」
葵に視線を移して、私は「ああ」と声を上げた。
綺麗な装飾が施された青いドレス。豪華すぎないデザインだが高級感があり、葵の可愛さを引き立たせている気がする。
隣を見ればクロエは……なぜかメイド服を着ていた。本人は嬉しそうにその場で一回転して、スカートをふわりと膨らませている。
「なんでまたそんな格好に？」
「ていうか、Aもだよ」
「え？」
クロエに指をさされて、私は自分の身体に視線を落とした。そして──
「なにこれ？！」
声を上げる。部屋の隅に姿見が置いてあるのを見つけ、すぐ駆け寄った。
そこにはクロエと同じく、メイド服姿の自分が映し出されていた。
黒のロングワンピースに白いエプロン。頭にはヘッドドレス。コスプレなんかでよくあるような、ぺらぺらな素材じゃない。クラシカルな本物のメイド服だ。
まず最初に羞恥で顔が熱くなった。絶望的に似合ってない気がする。人生の中でこんな服に袖を通すなんて思っていなかったのに。
「めちゃくちゃ恥ずかしい……」
「そう？ 私は嬉しいけど。神童んちでメイドさん見てから、一回はメイド服着てみたいって思ってたんだよね。髪型とか変えた方がいいかな。メイドさんっぽい髪型ってなんだろ」
クロエはそう言いながら、二つ結びの自分の髪を手に持って揺らしている。
元の顔がいいからだろう、クロエのメイド服姿は様になっていた。
「それで、結局タイムジャンプは成功したんでしょうか？」
葵の不安げな顔を見て、私は本来の目的を思い出した。
そうだ、アーサー王の物語の中にタイムジャンプしようとしたのだった。命は助かったようだが、ここからどうすればいいのかわからない。
「みんなはどうなったのかな……」
「探しに行く？ ここの周りは安全そうだし」
クロエの言葉に、葵と顔を見合わせる。確かにずっとここにいてもどうしようもなさそうだった。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
