672 異常事態 ページ15
──その時。
突然の大きな揺れがキャラバンを襲った。座っていても体勢が崩れるほどの、突き上げられるような衝撃だった。
同時に視界が赤く染まり、けたたましい警報音が耳をつんざいた。五感に一気に情報が飛び込んできて、私は混乱する。
「なにがあったぜよ？！」
「わからない──航行装置になにか起きてるのかも！」
フェイとワンダバが、額に汗を浮かべて運転席付近の機器を確認している。フロントガラスには大きく『ALERT』という赤文字が映し出されていた。
良くない事態が起きているというのは明らかだった。私はクロエと抱き合うようにして咄嗟に身を守る。
「やっぱり得体の知れないアーティファクトでタイムジャンプなんて、無謀過ぎたんじゃ……！」
「もう！ 王冠は本物やんね！」
狩屋の言葉に、黄名子がムキになって返す。
穏やかな七色の光をたたえていたワームホールは、いつの間にかどす黒い色に変わっている。
キャラバンが、巨人の手の上で弄ばれているみたいにぐわんぐわんと揺れていた。ガラスが割れて外に放り出されるんじゃないかという、嫌な想像が過ぎる。
「物語の世界に行くなんて、無茶だったんじゃないんですか？！」
「やっぱ定員オーバーじゃねーのか？！」
混乱するメンバーに、神童と太陽が声をかけた。
「みんな、落ち着くんだ！」
「危ないから何かに捕まって！」
恐怖のあまりせり上がってきそうになる悲鳴を必死に押し殺す。全く未知の状況に、混乱しないわけがない。
そんな私の震えを押さえつけるように、クロエが強く手を握ってくれた。
「──ダメだ、コントロールできん！」
キャラバンは航行機能を失ったまま、黒いワームホール内を突き進む。
そうして全身に電撃を浴びたような強い衝撃を受けたのを最後に、私の意識は途切れた。
最後に感じたのは、私に覆いかぶさるようにして庇ってくれた神童の体温だった。
＊
遠くで誰かが私の名前を呼んでいる。水の中にいるみたいに、その声は耳の周りで反響していた。
ゆっくりと意識が浮上していくのがわかる。耳に入る音が、目に入る光がどんどん大きく、強くなっていく。
そうしてゆっくり瞼を開くと、
「あ、やっと起きた」
「大丈夫ですか、Aさん？」
クロエと葵の顔が、まず視界に飛び込んできた。私の顔を覗き込むようにしている。
前後の記憶がうまく思い出せなかった。体を起こして初めて、私は自分がソファに横たわっていたことに気が付いた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
