669 絵本の中の ページ12
「どうした、なにか不満でもあるのか？」
「本気……なんですか？」
狩屋の呟きに、大介さんはしっかりと頷いた。
トンガットル共和国で入院していた時。隣の病室にいた男の子に本を読み聞かせていたら、それが存外面白くて夢中になってしまったのだという。
その物語こそが──
「『アーサー王と見習い騎士』です」
音無先生が持つ本に、みんなの視線が注がれる。
古くから世界中で読まれている物語だ。この本はストーリーの原型を学生向けにわかりやすく編纂して出版されたものだそうだ。
テーブルに置かれた本を取り囲むように、一同が集まる。私とクロエも輪の外側の方から話を聞いた。
物語は、アーサー王と円卓の騎士に憧れた若者が、従者を連れ城の近くの村にやってくるところから始まる。
道中で同じく円卓の騎士を目指す若者と出会い、遭遇した盗賊をやっつける。
そうして城についた若者は二人のメイドに出迎えられ、アーサー王と対面する。金の冠をかぶったアーサー王は、威厳ある男性として描かれていた。
そこからは円卓の騎士の入団テストに、若者たちが挑む。騎士と騎士との一騎打ちが、臨場感あふれる文体で描写されていた。
一方その頃、マスタードラゴンは黒騎士によって呪いをかけられていた。
操られたマスタードラゴンは城を襲撃、アーサー王の娘・メローラ姫を攫う。
王は姫を救うべく、一振りの剣を手にして立ち上がる──。
それぞれに感想を呟きながら物語を読み進めていたみんなも、「面白い」ということで意見は一致していた。
確かに、展開自体はよくあるものだけれど、なんというか心躍る感じがする。冒険というのはいつの時代の人間の心をも動かすものらしかった。
「でも、よりによって絵本の中から選んだんですか？」
「ああ、選んだ！ 不可能を可能にしてこその時空最強イレブンだ！」
私の問いに、大介さんは先ほどと同じようにきっぱりと言ってのけた。
でも実際問題、どうするつもりなのだろう。まさか絵本の中に飛び込めるわけもあるまい。
「んな無茶苦茶な……」とぼやいた狩屋。それに否を返す声があった。
「──いやいや、そうとも限らんぞ！」
神出鬼没といえばこの人、アルノ博士だった。
曰く、本来存在しなかった道で、その道を作り出せるアーティファクトがあれば、新たなパラレルワールドが生まれるかもしれない……と。
生み出すって、理屈はわかるがやっぱりめちゃくちゃではないのか。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年9月2日 11時
