617 回るゴンドラ ページ10
「またくじ引きで決めよっか？ 一個のゴンドラに四人まで乗れるみたいだから、二手に分かれるとか……」
そう私が言った瞬間、黄名子の瞳が煌めいた。
かと思えばサッと前に出てきて、私と神童の腕を掴む。
「観覧車は好きな人同士で乗るやんね！ ということでとりあえず神童さんとA、行ってらっしゃい！」
「え？ ちょっ」
何か言う間すら与えられず、私と神童は強引に列に並ばされた。
係員さんによって案内され、私たちは顔を見合せながらゴンドラに乗り込んだ。
扉が閉められる。こちらに向かって手を振る黄名子の姿が、ゆっくりゆっくり遠くなっていった。
向かいに座った神童と目が合うと、自然と笑みがこぼれた。
──気を遣ってくれたんだ。私は心の中で黄名子に感謝した。
「観覧車なんて、何年ぶりだろうな」
「そうだね。今日は天気がいいから、雷門中とかも見えるかも」
私は言いながら、意味もなく自分の指をいじったり前髪を直したりしていた。
こういう空間に神童と二人きりになったのは初めてなので、どうすればいいのかわからない。いや、別にいつもと同じようにしていたらいいんだろうけど。
一周はだいたい十五分くらいだろうか。その間どんな話をしようか、私の頭は高速で回転していた。
神童は窓から見える景色を楽しんでいるように見える。
四分の一ほどまで上った頃、西日が私の目を刺した。ゴンドラの中が橙色に染まる。
「こっちに座らないか？ その方向だと西日が眩しいだろう」
と。神童が脇にずれ、自分の隣を手で示した。
心臓がほんのりと温かくなった気がした。こういう風にさりげなく気がつくところとか……やっぱり、いちいちかっこいい。
「あ、ありがとう。じゃあお言葉に甘えて……」
私はゴンドラが揺れないよう、そっと神童の隣に移動した。
距離が近くなって、私の体温は体感で一度くらい上昇する。
私たちはもう両思いなのだから、いちいちドキドキするのはおかしいのだろうか。だけどこの胸の疼きだけは、自分ではどうやっても抑えることができない。
なんとなく窓の外に視線を向ける。何組かの家族連れが、出口に向かって歩いているのが見えた。父親らしき男の人の背中に小さな女の子がおぶわれているのがわかる。
今日のような日々がずっと続けばいいと、ふと思った。帰りたくない、とも。だけど楽しい時間には必ず終わりが訪れる。それはわかっていた。
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作者名：キメラ | 作成日時：2023年8月1日 10時
